なぜか浄水場複数停止の「最悪シナリオ」を除外 大地震が起きても「想定外」では許されない:放置された浄水場の耐震強度不足(3)
「セキュリティ対策」を理由に耐震診断結果を秘匿
後日、各浄水場で行われた耐震診断の結果について詳しいデータの提供を依頼すると、メールで次のように回答があった。 「情報を公にした場合、施設の内部構造(部材の構成、仕様など)が明らかになることや、施設間で強度の比較がなされた場合、強度の低い施設に対してテロ等の行為を助長するおそれがあります。 したがって、当局のセキュリティ対策上、耐震診断基準をどの程度満たしているのかが数値として分かる資料をご提供することはできません」 テロを助長するおそれがあるという理由なのだが、むしろ、実態を明らかにすることで都民に動揺が走ることを防ぎたい、という意図が感じられてしまう。 その後、あらためて都に対しての情報公開請求も試みたが、開示された資料は耐震診断結果の数値を示す部分など大部分が黒塗りで、いわゆる「のり弁」状態だった。 必要な耐震化工事が終わっていないうえに、耐震診断の結果も見せられないというのはあまりにもおかしくないだろうか。耐震診断の結果がブラックボックスの中に入れられたままでは、実際にどれくらい耐震性がないのか分からないし、都民にとっては早急に耐震化工事を実施すべきかどうかを客観的に判断する材料がない。もし、本当に大地震で2カ所以上の浄水場が停止した場合、水道局は「可能な限り給水を確保する」と再三説明するが、その量には限界があり、結果として都民の生命や安全な生活を脅かす事態に陥ってしまうのではないか。 診断後、速やかに耐震化工事に着手しなかったことはもう取り返しがつかないが、せめて、自分たちの住む街にどんな安全上のリスクが潜んでいるかについて、できるだけ多くの情報をオープンにしたうえで、都民とともに最善の対処法を考えていくのが本来あるべき行政の姿ではないだろうか。 また、前出の「首都直下地震等による東京の被害想定」を作成した東京都防災会議の事務局機能を担う東京都総務局総合防災部にも取材したが、 〈東京都地域防災計画では、震災などで個別の施設が停止しても給水が継続できるよう、導水施設の二重化、広域的な送水管のネットワーク化などを進め、水道施設全体としてのバックアップ機能を強化することとしています〉 などと、水道局と同じ趣旨の主張を繰り返し、「最悪の事態」をめぐる質問には直接答えなかった。ちなみに、この総合防災部は水道局とは違い、知事部局といわれる都知事の指揮監督下にある。だから、知事部局側も水道局の方針を是認していることになる。 今後、首都直下地震が起き、浄水場などが大きなダメージを受け、深刻な水不足となった場合でも、東京都はもはや「想定外」という言葉は口にできないことを心しておくべきだろう。 都民の側も、「蛇口をひねれば水が出てくる」を当たり前のことと考えず、災害時のインフラ維持について「自分ごと」として関心を向けていく必要がある。一時的な利便性を犠牲にしても、災害への備えを優先すべきか否か──その判断は、最終的には都民の決断にかかっている。 取材・文:POWER NEWS編集部