なぜか浄水場複数停止の「最悪シナリオ」を除外 大地震が起きても「想定外」では許されない:放置された浄水場の耐震強度不足(3)
「あまり『たられば』で話をしても…」
だが、東日本大震災は震源が陸地から100キロメートル以上も沖合にあった。断水は主に水道管の破断によるもので、各浄水場に大きな被害はなかった。あのとき、比較的早期に復旧できた「実績」があるからといって、今後起こり得る首都直下地震への備えは十分なのだろうか。現に、複数の主要な浄水場で耐震性能が足りていないというデータがあるわけだから、2カ所以上の浄水場が同時に壊れてもおかしくはないのではないか。こうした疑問について、水道局の担当者は正面から答えようとしなかった。 「2カ所、3カ所壊れたらどうなんだという話になると、われわれが考えている震災の話と論点が違ってきている気がするんですよね」 「あまり、『たられば』で話をしてもどうかと思いますので」 防災に関して「たられば」の話ができないというのは、健全な姿勢といえるのだろうか。こうした担当者の態度に接すると、どうしても東日本大震災での福島第1原発の事故のことを思い出さざるを得ない。敷地内を最大13メートルを超える津波が襲ったことにより、地下にあった非常用電源が浸水し破損。これによって全電源を喪失したことが、原子炉のメルトダウンにつながった。 福島第1原発の防波堤は最高で6.1メートルの津波を想定した高さだったため、当初は「想定外」の巨大津波が事故の原因だったという見方もあったが、後に驚くべき実態が判明する。 東京電力は2008年には福島第1原発の敷地内に最大15.7メートルの津波が到達する可能性があるという試算を得て、経営幹部にも報告されていたのだ。しかし、予測の信頼性などを理由に津波対策の実施は保留され、その結果、未曽有の原発事故が起きてしまった。 今回の件を取材する中で、ある水道局の幹部は「(主要な浄水場が)2カ所こけたら(壊れたら)大変なことになる可能性はありますよね」と認めつつ、「2カ所壊れたら、などと言い出したら(対策の)切りがない」と、本音をにじませた。 だが、過去に実績がないから、対策のコストが大きすぎるから、という理由で「最悪の事態」を初めから考えず、実際に被害が生じたときに「想定外だった」と主張するようならば、あの原発事故から何も学んでいないことになりはしないだろうか。 本当に2つ以上の浄水場が壊れた場合どうするのか、と質問を重ねても、担当者は「可能な限り給水を確保する、ということです」と繰り返すばかりだった。