なぜか浄水場複数停止の「最悪シナリオ」を除外 大地震が起きても「想定外」では許されない:放置された浄水場の耐震強度不足(3)
複数の浄水場停止は想定から除外
水道局の担当者が言う他の自治体からの応援にしても、応急給水車で運べる量には限りがあるうえに、震災による被害で道路網が寸断されている可能性もある。 頼みの綱の災害時給水ステーションの応急給水も3週間程度の備蓄しかないが、浄水場の復旧にそれ以上の時間を要する可能性があることは、他ならぬ東京都自身が予測している。 このシリーズの第1回でも書いた通り、東京都防災会議が2022年5月に公表した「首都直下地震等による東京の被害想定」には、水道管路の断絶による断水はおよそ17日で復旧すると見込まれるものの、浄水場などが被災した場合は〈被災状況により、被害が大幅に増加し、復旧期間が長期化する可能性がある〉と記載されているのである。 1月に起きた能登半島地震の対応を見ても、復旧が容易でないことはすぐ分かるはずだ。 水道局の主張には、もう1つ、重大な「盲点」がある。それは、同時に2つ以上の主要な浄水場が停止するという想定を除外しているのだ。 担当者によれば、マスタープランでは「過去に発生した重大リスク」をもとに、非常時の水供給が想定されている。ここで言う過去の重大リスクというのは、具体的には2002年に朝霞浄水場(処理能力170万立方メートル / 日)の場内で起きた薬品の漏洩事故によって、同浄水場が45時間にわたって完全停止した事例を指すという。つまり、170万立方メートル/ 日の水供給が失われる事態を想定しているということだ。 東京都水道局のマスタープランによれば、都の浄水場全体で1日に約660万立方メートルの水道水をつくる能力を確保する計画となっている。たとえ朝霞浄水場が止まって170万立方メートル / 日の水量が失われても、まだ490万立方メートルの供給能力がある。この計画での1日の平均配水量は約440万立方メートルなので、その時点で行われている他の浄水場の補修工事などによる能力低下を加味しても、まだ余裕があるというわけだ。 ただ、この想定はあくまでも主要な浄水場の1カ所が使えなくなった場合のもの。主要な浄水場が同時に2つ以上壊れる「最悪の事態」は想定していないようだが、それで本当に大丈夫なのか。こんな疑問を指摘すると、担当者は次のように反論した。 「東日本大震災(2011年)の事例では、土木施設が全壊はしていないですよね。亀裂が走った、といった程度の被害だった施設のほうが多いですし、阪神・淡路大震災のように高速道路が倒れるような被害はあまり出ていません。東日本大震災では19都道県で約257万戸が断水しました。ピーク時で約80万立方メートルの水供給が2日間ほどにわたって止まっていますが、約1カ月後にはおおむね復旧しています。こうした実績を踏まえて対策が考えられていると理解していただきたい」