日本の“カフェの聖地”を創ったのは アウトドア好きの青年。彼のコーヒー が35年愛され続けるシンプルな理由
豊かな自然が広がる栃木・那須高原からほど近くにある黒磯町。ここに、県外から多くのカフェ好きが足繁く通うカフェがあります。1988年にオーナーの菊地省三さんが開業した「1988 CAFE SHOZO」は、老朽化したアパートをリノベーションし、廃材や古い建材を使ってデザインされたレトロモダンな佇まいが魅力。当時では珍しいその手法に、多くのカフェが影響を受けたといわれています。 【画像】焙煎所内には、菊地さんが美味しいとサンプリングした銘柄が並んでいます。 開業以降も、菊池さんは同じ通りにある空き家を積極的に店舗へとリノベーション。すると店を持ちたいと希望する人が続々と集まり、黒磯が雑貨店やインテリアショップで賑わうようになったのです。 そんな今日の観光地としての黒磯の礎を作った菊地さんですが、彼の原点である「コーヒー」に掛ける思いとは何か? 多くの人に愛される「SHOZO」のコーヒーについて聞いてみました。
「シンプルなことで人を幸せにしたい」その答えは山にあった
36年前に地元である黒磯でカフェをオープンするまでは、バイクで全国を旅していたという菊地さん。 「20代の頃は、全国各地のいろんな店を巡る旅をしていました。そんな旅の最中、バイクで山へ行くことがあったんですが、そのときに飲んだコーヒーがすごく美味しくて! これほどシンプルなことで、こんなにも幸せな気分になれるんだって気づいたんですね。それまで特段コーヒーにこだわりがあるというわけではなかったけど、コーヒーで人を幸せにできるんじゃないかという直感を信じ、カフェを開く道を決意しました」
好みはクリーンなアフターテイスト。自らの手で焙煎も
コーヒーといっても、人によって好みやこだわりは千差万別。自分の好きなコーヒーを、同じように好きだと思ってもらえる人に喜んでもらえたら――。そう話す菊地さんが“目指す味”とはどんなものなのか。 「飲んだときに、口の中で濁る感じのテイストが好きではなくて。私が目指すのは、舌からすーっと消えて残らないクリーンなアフターテイスト。飲んだことを忘れるような、まるで水のような美味しさ。それでいて、味はしっかりと感じられるのがいい」 菊地さんに淹れてもらった浅煎りのコーヒーを啜ってみると、たしかに口あたりはスッキリ軽やか、えぐみも感じない。 「このテイストを安定させるためには、豆にこだわるだけでなく焙煎を確立する必要がありました。そのために、1年前に自社の焙煎所を建てたんです。それからは火加減、煎り止めのタイミング、温度など徹底的に追求し、自分で納得のいく焙煎ができたものを店に出せるようになりました。苦手な人が多い浅煎りも、杏を食べたようなフルーティさ、ジューシーさがあっておいしいと評判です」
コーヒーをもっと気楽に。誰でも、どんな淹れ方でも美味しいを目指す
自らが美味しいと思えるコーヒーを日々追求し続ける菊地さん。ただ、過度なこだわりは必要ないと言います。 「細かい淹れ方や温度調整など、こだわりだすとキリがありません。そうした過度なこだわりがコーヒーを難しく、複雑化させている気がします。豆の品質にこだわり、かつ焙煎をしっかり確立したコーヒーならば、どんな淹れ方をしても、たとえ冷めてしまっても美味しいんですよ。コーヒーはもっと気楽に楽しめるもの。それを『1988 CAFE SHOZO』のコーヒーを通して皆さんに伝えていきたいですね」 1988 CAFE SHOZO
平野美紀子