連載 ウクライナのいま 第2回「戦争で変わった旅の姿」
■道中の美しい風景 そして目的地へ
やがて山道に入り、峠に差しかかりました。そこには車を止め、ウクライナの山々の風景を堪能できる場所があります。その美しさは全くもって勝るもののない場所でした。
キーウを出発して10時間、ザカルパッチャ州に入りました。今回、訪れたのは山あいにあるコシノと呼ばれる温泉リゾートです。この場所には特別な思い出があります。侵攻当初の2022年春、私たちは西部へ避難していましたが、慣れない避難生活でストレスが限界に達していたときに、妻がコシノのことを教えてくれたのです。 初めてコシノを訪れたときのことを私は決して忘れないでしょう。ホテルの丁寧なスタッフや広々とした部屋、おいしい食事、あたたかい温泉。全面的な侵攻が始まって以来、初めて、私は安心して眠ることができ、疲れとストレスを癒やすことができました。侵攻当初の困難な時期を精神的に生き抜くのに、どれほど温泉が私たちを助けてくれたことでしょう。それ以来、ここは私たち家族にとって特別な場所になったのです。
今回、長い旅路を終え、私たちは空襲警報も、夜間外出禁止令もない場所に到着しました。ついに息をつき、短い間ながらもスマートフォンを置いてリラックスできます。子どもたちは待ちきれない様子で、おもちゃや遊具がたくさん用意された遊び場へ向かい、あたたかい温泉に飛び込み、おいしい食事を楽しみました。 食事を終えると、すでに夜遅く、全員が疲れていましたが、幸せでした。子どもたちは「初めて見る、おもちゃで遊んだ」「こんな子と知り合った」などと子どもらしい話題を口にしました。戦争の話題は、しばらくの間、私たちから離れたのです。
■つかの間の安全 そして再びキーウへ
全員がベッドに入りました。静けさ…、新鮮な空気…、砲撃の心配もなく、子どもたちは安全…。 ふと、空襲警報を確認するため、自動的にスマートフォンへと伸びかけた手を私は止めました。「私たちは安全なんだ」。その言葉は、まるで夢のような響きでしたが、信じられないことに、それが現実になったのです。
1週間の旅は、あっという間に終わり、キーウに戻った翌日の朝、目を覚ますと空襲警報の音が鳴っていました。「安全な暮らし」に慣れた私は一瞬、「警報が鳴っている夢を見ている」と、ぼんやり思いましたが、今度はこれが現実なのです。空襲警報、迎撃の爆発音、シェルターへの避難…。 ウクライナでは、旅が「余暇を楽しむ」ことよりも、「安全を得る」ためのものに変わったようです。私はいま、平和が再びウクライナ全土に訪れ、余暇を楽しむという本来の意味での旅が再びできるようになることを願っています。