“劣悪な環境”でも退院したがらない患者たち…精神科病院で働くソーシャルワーカーが目の当たりにした実態
厚生労働省の「地域包括ケアシステム」に思うこと
厚生労働省は人道的な観点というよりも、財政的な問題から、精神科病院に入院している患者を障害者向けグループホームや、訪問看護事業所を利用し、1人暮らしをさせるなどして、地域に移行させる政策をとっている。 「社会的入院をしている人も、閉鎖病棟での暮らしは制約が多いです。本来であれば、地域で受け入れられて暮らせるのが一番だと思います」 実際に、奥井さんの元には、障害者向けグループホームの営業がくる。精神科病院から患者の受け入れをすると加算がつくなど、ホーム側にもメリットがあるからだ。だが、現実には、グループホームごとに精神障害者への理解度に差がある。酷いところだと、ものの3ヵ月で症状が悪化し、病院に逆戻りしてくるケースもあるという。 「地域での受け入れは、病気や障害の特性を知っていれば可能です。地域住民や施設スタッフの理解があるという環境が整っていれば、できると思います」
精神障害は怖いというのは当たり前
「精神障害や精神疾患の患者さんを怖いと思うのは、当たり前だと思います。電車で叫んでいる人がいても、なぜ叫んでいるか理解できなかったら怖いですよね。偏見があること自体が悪いことだと思いません。差別や偏見は『知らない』ことから起こります。だから、知って欲しいと思います」 奥井さん自身も、実習の際に、患者を目の前にして、どう接していいか分からず、戸惑い・恐怖した。だが、それも、疾患や障害への理解が進むうちになくなっていった。 「若い人の、自立したいという思いは、すごいものがあります。統合失調症の若い患者さんでしたが、頓服薬を飲みながら、『奥井さん、これでいいんですか?』と障害年金の申請書類を3ケ月かけて書いた人がいました。分かろうとしてくれたら、本人たちも私も嬉しいです。色々な陽性症状があります。だけど、泣いたり・大声を出したり、丸裸でぶつかってくる姿は人として純粋だと思います」 地域での受け入れには、偏見や疾患・障害への無理解があり、障害者施設を建てるとなると反対運動が起こることも珍しくない。 「私は、精神疾患・障害の人に環境に慣れてもらって、それでもダメなら薬の処方を考えればいいと思っています。私が勤務する病院の医師たちも、そういう方針です」 差別や偏見は悪いものではない。そう言われると、精神疾患・障害者と関わるハードルが少し下がるのではないだろうか。精神障害・疾患の人たちを地域で受け入れるために、私たちができることは、まだまだありそうだ。 <取材・文/田口ゆう> 【田口ゆう】 ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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