“劣悪な環境”でも退院したがらない患者たち…精神科病院で働くソーシャルワーカーが目の当たりにした実態
初めて目の当たりにした精神科病院の実態
「医療保護入院の場合、ほとんどの患者は車椅子で運ばれてきます。暴れる人も多いので、すまきにされて、民間救急で運ばれてくる人もいます。暴れる人は、男性看護師が多い日に入院してもらいます」 診察室で男性看護師たちが待ち受け、暴れる患者を5人がかりで押さえ、腕に鎮静剤を注射する。身体拘束は人道的な観点より、撤廃する病院も増えているが、奥井さんの勤務先ではまだ身体拘束をしている。 「一般的には5点拘束をします。酷い時は、それに首・肩も拘束します。患者さん自身や職員を守るためです」 入職そうそう、奥井さんはショッキングな光景に遭遇する。 「常に人手が足りないので、おむつ交換ができず、シーツが排泄物でまっ茶色になっている高齢者男性を見て、かわいそうだと思いました。保護室で自殺もありました。ドアノブに隠し持っていた靴紐をかけて自殺をした人がいました。自殺者が出て、まだ息がある時は、人手もないので救急車を呼びます。パーテーションの向こう側で蘇生措置を行っているのに、入院患者は夕飯の時間なので晩ご飯を食べていて驚きました」 精神科病院には、自殺予防の観点から、カーテンはついていない。若い人の6人部屋で、困ったのは、性の問題だという。 「朝になると、夜中に自慰行為をした人の匂いが部屋にこもるので、クサい、と喧嘩になります。本人と話して、どこで自慰をするか話し合ったことがあります。閉鎖病棟なので、窓もちょっとしか開かない。トイレでやるしかないのですが、集中できないなど、苦労をしていました」 そんな劣悪とも思える環境だが、入院患者は退院したがらない。
入院した患者はそれでも退院したくない
「65歳以上になると、老人ホームに入るように促すのですが、居心地がいいから嫌だという人が多いです。外の世界に出たくないから入院することを、『社会的入院』というのですが、長い人で35年入院していました。それだけ社会に出ると、偏見や差別があるし、服薬を継続するのが難しいんです。内臓疾患で転院が必要となっても、受け入れ先の病院はなかなか見つかりません。これは大きな社会問題です」 重度の統合失調症の患者は、薬を飲んでも、なおかつ幻覚や妄想などの症状が完全に消えない人もいる。 「そういう人たちは妄想の中で生きています。入院中は自分で薬を飲んで、飲み切るかを見届けるのですが、1人で暮らせた人は見たことがありません」