「業績好調」のマツダがタイ市場で抱える懸念、“日系の金城湯池”から生産撤退するメーカーも
AATがフォードとの合弁であることも決断しづらくさせる。コンパクトカーの「MAZDA2」やSUV(スポーツ用多目的車)の「CX-30」といったマツダ車のほか、フォード車も作られている。「生産撤退をするにしても、簡単には決められないのでは」(あるサプライヤー幹部)という事情があるのかもしれない。 「そもそもマツダは撤退できない会社だ」と指摘するのは、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリスト。「(競争が激化する)中国市場もそうだし、今回のタイも同じだ。フォードとの合弁だったアメリカの工場は撤退したことがあるが、それ以外はなかなか決断できていない」(同)。
ただ、「決断できない」ことは「諦めない」ということでもある。有名なマンガのセリフではないが、「諦めたら、そこで試合終了」である。 幸いマツダの業績は好調だ。 2023年度はその北米の販売増や円安の押し上げ効果もあって、営業利益2505億円(前年度比76.4%増)、純利益2076億円(同45.4%増)といずれも過去最高を更新した。 2024年度も北米の新型車投入などによって営業利益2700億円(同7.8%増)を計画する。1ドル=143円の為替想定を考慮すれば、上振れの可能性も十分にある。ASEANが多少の赤字となったして、マツダの経営がすぐに揺らぐことはない。
■中国メーカーの攻勢は強まる一方だ 問題は、マツダがタイ、およびASEANで挽回できるどうかだ。ただ、市場環境はますます厳しくなる可能性が高い。今年1月には長城汽車がタイでEV生産を開始した。7月にはEU(欧州連合)における中国製EVへの追加関税が開始される。中国勢のASEAN市場への攻勢は強まるばかりだ。 前出の杉浦シニアアナリストは「足元の業績がいいので軌道修正がしづらいのだろうが、このまま何もしなければ、どこかのタイミングで(AATを)維持できなくなるだろう」と釘を刺す。
業績の不安が少ない今だからこそ、タイ市場に資金を投入して改革に乗り出すのか、それとも思い切った決断をするのか。マツダのASEAN戦略に注目が集まる。
村松 魁理 :東洋経済 記者