冤罪覆すのに43年、袴田事件再審無罪が突きつけた重い現実 「救済は民間任せ」の日本は変わるのか 専門家は「最後のチャンス」を政治の力に期待する
1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)が裁判のやり直し(再審)で無罪となり、再審制度の法整備を求める声が高まっている。最初の再審請求から43年もの年月を要し、冤罪被害者の救済手段として有効に機能していないためだ。刑事司法に詳しい成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)に問題点や課題を聞いた。 -再審制度の現状は。 「再審は有罪が確定した判決の誤りを是正する非常救済手続きだが、請求に何重ものハードルがある。無実を明らかにするための証拠は警察や検察の手元にあり簡単にアクセスできない。法律の専門家である弁護士もボランティアだ。社会の注目を恐れ、声を上げられない人もいる」 「(1979年に大崎町で男性の変死体が見つかった)大崎事件をはじめ、日弁連が支援する再審事件は全国に10ほどあるが、要件が厳しい。この国は冤罪の救済が民間任せで、絶望や諦め、わずかな善意の下に辛うじて成り立っている。こうした現実は国民にほとんど知られていない」
-裁判所によって手続きの進行が異なる「再審格差」という言葉がある。 「再審事件は裁判所の中で『雑事件』として扱われ、裁判官の能力評価に全くカウントされない。さらに再審開始決定を出したら不利益人事を被ることがある。裁判官にとっては先輩のあら探しでもあり、積極的にやろうとはしない」 -刑事訴訟法の再審規定は19カ条しかなく、法の不備が指摘されている。 「日弁連は再審における証拠開示制度の整備、再審開始決定に対する検察官抗告の禁止などを提言している。これらの法整備でハードルを下げていくことはできるだろう。ただ、裁判所の姿勢が変わらない限り制度はうまく機能しない」 -1980年代に死刑4事件で再審無罪が出たが、法改正は実現しなかった。 「当時は政治が動かなかった。今回大きく違うのは超党派の議員連盟が発足し、政治家が声を上げ始めたことだ。国会議員の約半数が加入している。再審に反対する検察と一体の法務省が法改正に動くはずがない。袴田事件が無罪となった今、議員立法で変える最後のチャンスと言っていい」