30年変わらない通関料金・・・適正な料金水準にほど遠く、業者もため息
■違反行為目立つ
値上げの必要性は論をまたないが、アンケートでは「実際に値上げ交渉に踏み切れた荷主はほとんどいない」との回答が69%を占めた。取引停止や縮小の懸念、同業他社との競合などから交渉をためらう事業者が多い。 さらに値上げを求めたとしても、「多くの荷主が協議のテーブルに着いてくれた」と回答したのは35%にとどまった。 内閣官房と公正取引委員会が昨年11月に発表した労務費転嫁のための価格交渉の指針では、労務費の転嫁に関して発注者と受注者に計12の行動指針を定めている。指針に沿わない行為が公正な競争を阻害する恐れがあると判断すれば、公取委が独占禁止法・下請法に基づき厳正に対処する。 発注者の行動指針の一つに「受注者から労務費上昇を理由に価格の引き上げを求められた場合には、協議のテーブルに着くこと」がある。交渉にすら応じないことは指針に抵触する。 指針には「労務費の転嫁を求められたことを理由に取引を停止するなど不利益な取り扱いをしない」ともあるが、アンケートでは値上げを求めたところ、他社への乗り換えや取引案件の縮小などがあったことや、値上げを申し入れていない他の通関業者を起用する旨の発言もあったとの回答が見られた。「受託のためには値下げ要請を受けるのが実態」との声もあった。 加えて、指針には発注者から定期的に協議の場を設けることも定められているのに対し、そうした荷主は「ほとんどいない」と回答した事業者は77%に上った。
■値上げの環境整備を
価格転嫁の難航は名古屋地区に限った話ではない。東京港を地盤とする海貨業者は「首都圏でも料金が旧上限額に届かないことは珍しくないのではないか」とため息をつく。 これまで自助努力やその他の料金、事業でカバーしようとしてきたが、限界に近づいているという。通関料金の値上げに加え、EPAに関するコンサルティングといった業務の料金化が必要だが、通関に付随するサービスとして捉えられるため、他社との競争上難しい。 少子高齢化と業務負荷の増大により、人手不足に拍車がかかることも懸念される。名古屋通関業会のアンケートでは、通関従事者の賃金のベースアップを行っているとした事業者は74%。それでも「現在の賃金が十分な水準だと思わない」「どちらかというと思わない」の回答が計64%となり、人材を確保するには不十分との認識がうかがえる。 同会の調査結果も受け、財務省関税局は5日付で荷主団体に対し関税・消費税などを通関業者に立て替えさせる取引や価格転嫁について注意喚起する文書を出した。関税・消費税の立て替え問題は改善が進んでいるが、先の関係者は「通関料金に関しては旧上限額の料金表の存在が問題の原因だ。料金表があるがゆえに、皆がとらわれてしまう」と指摘する。 政府の「2024年問題」対策により、トラック運賃は上昇傾向にある。トラックの「標準的な運賃」と同様に、物流の一部である通関に関しても政府による適正な料金水準設定を望む声や値上げのための環境整備への要望が上がる。 一方で、各社が政府の指針や名古屋通関業会の調査結果を積極的に活用することも求められる。同会は「調査の目的は政府の指針を周知するとともに、適切な価格交渉をしやすい環境を整えていくこと。それぞれ事業者に活用してほしい」としている。