2017年「化学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
この手法とTEMを組み合わせることで、分子1つの動きをリアルタイムで観察するという偉業を成し遂げたのです。
繰り返しますが、分子の形やふるまいを知ることは重要です。例えば、病気の原因タンパク質分子の形を知ることで、より効果的な薬物分子を作ることもできます。そのため、この手法は、新物質・新現象の特定や理解において画期的な手法となると期待されています。 中村博士は、その他にも鉄触媒をつかったクロスカップリング反応や有機系太陽電池の研究でも大きな成果を上げています。 ◎予想=科学コミュニケーター・鈴木毅
がん治療における高分子薬物の血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果の発見
《前田浩(まえだ・ひろし)バイオダイナミックス研究所理事長・所長/松村保広(まつむら・やすひろ)国立がん研究センター 分野長》 二人は、がん組織の血管とリンパ系の特徴に着目し、がん組織内に高分子薬物が長時間滞留する現象(EPR効果)を発見しました。 がん組織では細胞分裂が爆発的に起こっており暴走している状態です。栄養を運ぶための血管もものすごい勢いで作っています。しかし、突貫工事で作った血管は壁のすきまが大きく、正常な組織の血管からは漏れないような大きさの成分まで通してしまいます。
さらに、がん組織では血管から漏れ出た成分を回収する役割を持つリンパ系が未発達なため、血管の中から漏れ出た抗がん剤を細胞外に出す能力が低いという特徴があります。
また、高分子薬物は低分子薬物と比べて動きが遅いので血管の中に戻りにくいという性質があります。 つまり、サイズの大きい抗がん剤は、効果的にがん組織に送り込まれ、長時間にわたって患部に留まり続けます。これを「血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果」と呼びます。 がんの化学療法の最も基本的なコンセプトは、抗がん剤でがん細胞の細胞分裂を抑えることです。しかし、正常な組織にも活発に細胞分裂を起こす細胞があります。抗がん剤は細胞分裂が活発な正常細胞とがん細胞を見分けることはできません。誤って正常細胞にも攻撃し、その結果が副作用として現れます。