2017年「化学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
がん組織を効果的に狙うEPR効果は、現在の抗がん剤設計の基本的なコンセプトの1つとなっており、前田博士と松村博士には2016年の化学分野のトムソン・ロイター引用栄誉賞が贈られています。 ◎予想=科学コミュニケーター・森脇沙帆
プロトン共役電子移動(PECT)の発見
《トーマス・J・マイヤー(Thomas J. Meyer) 博士》 マイヤー博士は、化学的、生物学的エネルギー変換反応で極めて重要な役割を果たしている「プロトン共役電子移動(PCET)」の実証に世界で初めて成功しました。 プロトンとは水素陽イオン(陽子)のことで、PCETは文字通り、電子移動に伴ってプロトンの移動が起こる現象です(ただし、電子とプロトンは別々のところに移ります)。
電子は単体で移動するよりも、プロトンに手助けしてもらいながらPCET機構で移動する方がエネルギー的に有利です。 PCET機構にはいくつか種類がありますが、上で示した例に関してとても簡単な説明をすると、プラスの電荷を持つプロトンが近づくことで、マイナスの電荷をもつ電子がその方向に移動しやすくなるからといえます。
こう書くととても単純な反応に思えますが、実は、光合成や呼吸など、私たちの命に直結する多くの反応にPCETは欠かせません。それらの反応ではいかに効率よく電子を運ぶかが鍵となるからです。このため、PCETの理解を深めることは、光合成や呼吸以外にもDNAの修復など、化学反応によって起こる私たちの身の回りの現象のメガニズムをより深く理解することにつながります。 マイヤー博士は、1981年に世界で初めてPCETの実証を報告し、この研究を切り開きました。理論が深まると、その応用も進みます。すなわち、PCETをより深く理解することで、より理想的に反応を起こすような触媒の開発などに直結するのです。
今回紹介したPCET以外にも、マイヤー博士は多くの優れた業績を持っています。「人工光合成」や「エネルギー課題への貢献」といったテーマでの受賞可能性も大いにあり得ると思われます。 ◎予想=科学コミュニケーター・梶井宏樹