Crossfaithが明かす魂の復活劇 傑作アルバムを支える不屈のマインド
アルバムのスタート地点は「山での生活」
―もちろん、アルバムというのはまだ見えてなかったと思うんですけど、今作の曲は活休中からつくり始めていたんですか。 Teru 活休を発表してからひと月後ぐらいに、俺たちのライブを撮ってくれてるフォトグラファーの青木カズローくんが「ちょっといいとこあるから、山でも行ってきたら」って岐阜の山奥にあるカズローくんのおじさんの別荘を勧めてくれて、それでメンバーにも「気分転換も兼ねてちょっと山行かへん?」みたいな感じで誘って、楽器を持って1週間くらい山に行ったんですよ。朝は川に行って、木を拾って、薪を割って(笑)。 Kazuki 焚き火もして(笑)。 Koie めちゃくちゃサバイバル。みんなで車で行ったんですけど、山に着いた日にマネージャーが車のキーをなくしちゃって、ほんまに山奥やからコンビニとかマジでないんすよ。だから、スーパーで買い出ししたもんしか残ってないなかみんなで助け合って、温泉に行くのに2時間半ぐらい歩いたりして(笑)。 Teru そんなときでも自然とみんなで音を鳴らしてたんですよね。「なんかつくろうぜ!」じゃなくて。で、温泉に行く途中に見つけた<宇宙ツアー>っていう看板に惹かれて後日改めてそこに行ってみたら、シーズンオフのスキー場が「山のてっぺんで星見れます」みたいなことをやってたんですよ。そこでみんなで星を見たりして、それが今回の曲につながってるんですよ。そのときの山での生活が今回のアルバムのスタート地点だったんじゃないかって思ってるところはあるっすね。 ―では、本格的に制作に向かう気持ちになれたのはいつぐらいなんですか。 Koie 去年の秋ぐらいから本格的につくることになって、俺らが生まれて初めて入ったフクダスタジオっていう地元のスタジオを使わせてもらったり、今回のツアーの最後に回るFUZZっていう地元のライブハウスを3、4日貸し切ったり、そこで爆音で曲をつくったのが『AЯK』の最初のセッションでしたね。―じゃあ、今回は原点に立ち返って制作をした作品なんですね。 Koie そうっすね。で、秋に曲をつくり始めて、年末にはもうレコーディングが終わってた。 ―それ、すごくないですか? Teru それはもう、爆発したとしか言いようがなくて。フクダスタジオで初めてDaikiと曲づくりのセッションをしたんですけど、その初日にできたのが「ZERO」なんですよ。 ―……それはちょっと鳥肌モノの話ですね。 Koie ほんまに1日に1曲アイデアが生まれるぐらいの感じでした。Daikiの引き出しの多さも大きかったし、ヴァイブスもよくて。Daikiは俺らと同じ目線でバンドのことをずっと見てきてるし、俺らと同じような音楽を聴いてたりするから共通言語もすごく多いんですよ。しかも、DaikiはCrossfaithの曲っていうことをわかって曲を書いてくれてて、「ここはこうしたほうがCrossfaithっぽいと思う」っていうこともちゃんと言ってくれるんですよね。で、そのセッションが終わったあとにいつも合宿させてもらってる奈良のスタジオに行ったんですけど、そこでDaikiに正式メンバーとして入ってもらおうっていう話をして。 Teru そうやな。ヨーロッパツアーに行く前日ぐらいに。 Daiki すごいタイミングでした。みんなで晩メシ食ってるときに、「Daiki、メンバーになってくれへん?」って。「え、今?」みたいな(笑)。 ―あはは! Koie Teruが「今日言おうと思ってる」って言ってて、「ああ、いいんちゃう?」みたいな。でも、どのタイミングで言うのかなと思ってたら、「そのタイミング!?」みたいな(笑)。 ―あはは! ヨーロッパへ行く前日ってけっこうドタバタしてるタイミングじゃないですか。そんなときに言われるとだいぶ心揺さぶられますよね。 Daiki そもそも、作曲の合宿に入ることになったときはまだメンバーじゃなかったし、ちょっと複雑な気持ちだったんですよ。 ―それはそうですよね。 Daiki もちろん光栄だし、嬉しいんですけど、メンバーじゃないからどこまで携わるべきなんだろう、みたいな。でも、間違いないものをつくりたいっていう気持ちでいたし、やってるうちにどんどん楽しくなっていってたときにそうやって声をかけてくれたんで、「そうなるよね」みたいな。 ―自然な流れだったんですね。 Teru 遅いぐらいかな、ぐらいの感じでしたね。 Daiki 誘ってもらったときは、「遠慮しなくていいんだ!」みたいな気持ちになりました。 ―4人としては、曲づくりのセッションを経て「これは入ってもらうしかないでしょう」っていう。 Tatsuya そうです。「こんなにしっかりヴァイブスがつながるメンバーはDaikiしかいないでしょ」っていう確信に変わりました。 ―2021年や2022年にも配信シングルを出していたけど今作には収録されていなくて、なんでだろうとは思っていたんですけど、今の話を聞くと入らないのも納得です。 Koie 制作を始める前に、「活動休止を終えてからどうしていこうか」「アルバムで復活したいよね」みたいな話をしてたときは、「じゃあ、『Gimme Danger』入れる? どうする?」みたいな話もしてたんですけど、実際につくっていくうちに新しいもんだけでやろうっていうことで入れないことになりました。 Teru 意図的に入れなかったわけじゃなくて、本当に自然な流れで。Daikiと初めてセッションに入る前から各々曲を溜めてて、俺もネガティブな状態にいるときでも曲づくりは続けてたんですけど、その曲たちをどうしようかっていう話になったときに、「いや、これちゃうなあ」みたいな(笑)。 Koie つくってくれた曲を聴かせてもらったとき……曲はいいんですよ? めっちゃいいんすけど、Teruが「でもな、この曲は暗いねんな」って言って、「ま、確かにちょっと暗いな」って(笑)。そういう判断をするぐらい俺たちのモチベーションが高かったというか、めっちゃアッパーな状態になってて。 ―バンドのテンションがストレートに反映されてる作品なんですね。 Koie そうですね。今、話しててびっくりしたのが、曲をつくり出してから3、4カ月でアルバム1枚つくったんですよ。今までのスピードから考えたらだいぶ早いんじゃない? Kazuki それぐらいHige Vibes(ハイ・ヴァイブス)やったよね。 ―ポジティブな作品にしようと意識していたんですか。 Tatsuya そうですね。 Koie 「明るい曲だけにしようぜ」みたいな話し合いはなかったんですけど、気づいたらっていう感じで。 Tatsuya 活休からの復活ということもあったんで、やっぱアッパーでパワーのある感じでいきたいよねっていう意識は自然と共通してもってたのかな。 ―自分たちのモードに合う曲をつくっていくなかで自然とこうなったと。 Koie ああ、そういうことですね。 ―Tatsuyaさんは活休の間、YOASOBIなど多岐にわたるアーティストのサポートドラマーとしてライブに参加していましたけど、そういった経験が今作に反映されている部分はありますか。 Tatsuya めちゃくちゃ反映されてると思います。最も集中力が発揮されるライブという場所でいろんなアーティストと演奏することでレベルアップや進化につながったし、そこで得たものをバンドに持ち帰ることで、曲をつくる上で新しいアクセントの付け方をすることができたり、いい影響を与えていると思います。さらに進化したものを表現できてると思います。 ―自分の手癖とは異なるフレーズを叩くことで学ぶものがあったり。 Tatsuya いろんなライブを経験したことによって、いろんな音に対して気を使うようになったり、視野が広がったのかなという印象はあります。 Teru これまでずっとやってきた曲でもちょっとアプローチが変わってたりするし。 Tatsuya うん、表現の幅はめちゃめちゃ広がったよね。 Koie 「こいつ、まだ進化する!?」みたいな。あはは! Teru Crossfaithとは180度違う楽曲たちをずっとプレイしていて、しかも音だけじゃなくて現場の環境も違うし、携わってる人も違うし、そこでの経験は絶対すごいですよね。 Tatsuya なんか、修業に出た気分になりました(笑)。 Kazuki (Tatsuyaがドラムを叩いた)TKさんのライブを観に行ったんですけど、CrossfaithのTatsuyaのドラミングとは全然違って、それはそれでめちゃくちゃ新鮮でしたね。 ―今回、6年ぶりのアルバムになるわけですけども、今、改めてCrossfaithが表現したいものってなんなんでしょうか。 Teru 今回のアルバムは誰かのためにつくったとかそういうことじゃなくて、自分たちのためというか、自分たちがカッコいいと思えたり、ハイになれるようなものにしたいと思ってて。何がカッコいいんやろうとか、誰のためにやってんやろとか、わからんくなる瞬間はけっこうあったんですけど、今回のアルバムは本当に全曲すごいポジティブなエネルギー、前に進んでいこうというエネルギーに溢れていて、それは自分たち自身が前に行きたいと強く思っているからこそそういう曲ができていると思うし、そうやって生まれた音を通じてお客さんにもポジティブなエネルギーが伝わればすごく嬉しいです。ライブでも一緒にポジティブなエネルギーを生み出すことができたら、俺たちが前に進めたようにライブに来てくれた人とか音を聴いてくれた人たちも前に進めるエネルギーを共有できるんじゃないかなって。そういう作品になればいいなと思います。 ―このテンション感でありながら、実はパーソナルな作品だという。 Koie そう。 Teru めちゃめちゃ。多分、過去いちパーソナルなんじゃないかな。 ―パーソナルっていう表現が全く似合わない音ですけどね。 Koie そうですね(笑)。でも、メンバーそれぞれに想いは絶対ありますね。 ―今回のような経験を経たことで内面の変化はありますか。 Koie 個人的には建前がなくなったというか、地に足がついたというのは感じてるかな。本音と建前がある世界だとは思うんですけど、「それ、いらんな」みたいな。あんまり自分を作りすぎないというか。ここ2、3年は本当に辛い時間でもあったし、それがあったからこそ人の痛みがさらにわかるようになったところはあると思います。 Teru 等身大なメッセージだからこそ感情やリアリティが乗っかるし、今回もCrossfaithの音の世界にコイちゃんの歌詞と感情がこれまでで一番乗っかったと感じてますね。 ―でも、ポジティブな楽曲が揃った中でも「DV;MM¥ SY5T3M...」だけはネガティブなものになっていますよね。自分たちが経験した辛い期間と、この曲のもとになっているエヴァンゲリオンはどうやって結びついたんですか。 Teru 俺はずっとエヴァンゲリオンのファンで、エヴァにはダミーシステムが暴走するっていう設定があるんですけど、それがエレクトロとかアップテンポとかハードコアにマッチするやろなっていうアイデアはずっと頭の中にあったんですよ。そうしたら、地元のスタジオでセッションしたときにDaikiが弾き始めたリフを聴いて、「あ! これは……ダミーシステムや!」ってピンと来て、そこからつくり始めたんですよね。 Koie 歌詞はめちゃくちゃ書き直したし、今回一番時間がかかってます。最初はアルバム全体をポジティブなものに仕上げようっていう話にはなってたんですけど、そのときに感じていたネガティブなことも自然と歌詞には出てくるから、1曲ぐらいは自分たちが置かれていた状況とかそこで感じていた痛みを表現したいなと思って、メンバーにも話してこういう歌詞にしました。最初は頑張ってポジティブな歌詞を乗せようとしたんですよ。だけど、どうしても無理だったから逆の方向に振り切って考えてみたら、「シンジくんと初号機の関係って面白いな……」っていうところから歌詞を書いてみたら、自分の中で一本筋が通ったような感じがしたんですよね。自分も落ち込んだし、Teruがダウナーになってたのもこの目で見てたし二度と同じ経験はしたくないけど、自分たちと似たような境遇にいる人たちがこの曲を聴いて「自分だけじゃないんやな」って思えたらちょっと楽になるんかなって思って歌詞を書き直しました。 ―曲中に「気持ち悪い」という有名なエヴァのセリフが出てきますが、これはTeruさんのアイデアですか。 Teru あれは実はコイちゃんで。あと、「気持ち悪い」以外にもあの曲にはけっこうエヴァの小ネタを盛り込んでいるんですよ。 ―あ、そうなんだ。 Teru リズムとか。 Koie え、リズムもなん!? Teru そう、リズムも。わかる人が聴いたらちょっとニヤッとしちゃうような小ネタがいくつか入ってて。 Koie スタジオカラーに送ろ(笑)。 Teru (笑)「気持ち悪い」は友達に頼んで言ってもらいました。 ―個人的にはこの曲が一番好きです。めちゃめちゃかっこいいです。 Daiki メタラーですね。