欧州日本人プレーヤーも仰天「なぜここに日本人が?」 “ハイグレード専門職”を目指す男の恩返し【インタビュー】
4か国語を操る万能ホペイロを目指して日夜勉強「できたらかなり強いかなって」
思ったら即実行が神原流。「なので最近フランス語の勉強も始めました」とさらっと言う。ドイツ語と英語だけでも大変なはずだが、「フランス語圏から来た選手のサポートができるようになったら、お互いにとってプラスですから」と、さも当然のように話す。 語学の上達には実践が一番。休暇を使ってフランスのアルザス地方に1週間ほど旅行を計画し、道中のコミュニケーションすべてをフランス語で行ったという。 「いけました! 本当に8~9割はフランス語だけで頑張ってやり取りしましたね。ホテルのチェックインやチェックアウト、レストランでの注文、町の案内所で質問するとか、そんな簡単なことだけですけど。できるだけフランス語だけで、なんとかしようと。ただ自分が伝えたいことは伝わるんですけど、例えばホテルの人が案内してくれたり、ちょっと相手が長く喋り始めると理解するのが難しいなっていうのはありましたね。やっぱりそこは課題ですね」 ドイツ語、英語、フランス語、そして日本語。4か国語を操るスタッフがクラブにいたら、それは重宝されるだろう。良いホペイロとは、ただ用具の整備や準備をするだけではなく、チームの雰囲気を良好にするコミュニケーション能力を持っている人。選手とスタッフが世間話で笑い合える空気感があるチームの結束力は強い。 「日本語を含めて4か国語ができたらかなり強いかなって。特にザンクトパウリだと半分近く外国人選手だったりします。日本人選手がドイツに来てくれるのはすごく嬉しいですけど、俺のチームには来ないんだろうなと。でもどこかで期待はしています(苦笑)」 かつてザンクトパウリではFW宮市亮(横浜F・マリノス)がプレーをし、ファンから愛される存在となっていた。いつの日かまた日本人選手が所属し、神原を介して多国籍な選手同士が固い絆で結ばれていく。そんな未来像は決して夢ではないのかもしれない。(文中敬称略) [プロフィール] 神原健太(かんばら・けんた)/筑波大学体育専門学部に入学後、関東大学サッカー連盟でリーグ運営のスタッフを経験。選手をサポートする仕事に魅力を感じ、J2のFC岐阜などでホペイロを務める。その世界で頂点を極めるため2017年にドイツへ渡り、手探りで道を切り開き、3部クラブのイエナと契約。2020年に当時2部から3部降格したドレスデンへ移り、22年には2部ザンクトパウリへと移籍。23-24シーズン、クラブとともに悲願の1部昇格を祝った。 [著者プロフィール] 中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。
中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano