ワイン界に一石を投じる天才醸造家「ローラン・ポンソ」が目指す“オートクチュールのブルゴーニュ”とは?
かつてのブルゴーニュのように”ネゴシアンが造る美しきワイン”を世に蘇らせたのがローラン・ポンソだ。彼が理想とする「温故知新」とはどんなものか、話を聞いた。 【写真】ローラン・ポンソのおすすめワイン その類まれな才能で、かつては“アンファン・テリブル(恐るべき子ども)”とも評されていたのが、ブルゴーニュの名門「ポンソ」の前当主ローラン・ポンソだ。ブドウはビオディナミやビオロジックとも異なる自然栽培を実践、SO2(酸化防止剤)無添加で造られるワインの数々は優雅さを湛え、熱狂的ファンが多かった。 その彼が「ポンソ」を去り、自らの名を冠したドメーヌ「ローラン・ポンソ」を立ち上げたのは2017年のこと。「新樽を使わない」、「SO2不使用」、「フィルターはかけない(濾過しない)」という自然な造りに則った哲学はそのままに、また新たなアプローチで素晴らしいワインの数々を生み出している。
ローラン・ポンソ氏。「天才」と謳われる人物で、温度センサー付きラベルや独自に開発した合成コルクなど、新技術を開発。また、偽造ワインのオークションでの摘発など、ワイン管理の向上にも気を配る
「以前から、昔ながらのワイン造りに立ち戻ってみたかった。ただし、最先端の手法でね。ワイナリーには最新の醸造設備を備え、極力手をかけずとも素晴らしいワインができるようになっていますよ(笑)」とポンソ氏。とはいえ、「極力手をかけず」とは、ポンソ氏ならではのユーモア。実のところは厳しい管理のもと、緻密なワイン造りを実践している。ワインが目指す味のレベルに達しなければリリースせず、蒸留酒造りに回すという徹底ぶりだ。 そんなポンソ氏が目指すのは“オートクチュールのネゴシアン”だという。ちなみに、ネゴシアンとは「自社畑も所有するが、ブドウやワインを購入して瓶詰めをする生産者」のこと。また、ドメーヌとは「自家ブドウでワインを造り、瓶詰めまで行う生産者」を意味する。ブルゴーニュには”ドメーヌであり、ネゴシアン”という生産者も多い。ポンソ氏はこう語る。 「かつてのブルゴーニュではネゴシアンが活躍し、『フェブレイ』などの大手が美しいワインを造っていました。ところが1980年以降、小規模のドメーヌが元詰めを始め、それが市場でもてはやされるようになった。確かに、畑のテロワールを反映した素晴らしいものも多いのですが、反対にそうではないものもある。私は、中世から1970年代までの昔のネゴシアンが造っていたような“ブルゴーニュの美しさ”を感じさせるワインを造りたいと思ったのです」。 今のワイン愛好家の中には“ネゴシアンはできあがったワインを買ってブレンドするだけの生産者”という否定的なイメージを持つ人もいるが、ポンソ氏は、ブドウや樽詰めワインの品質を見極め、卓越したブレンド技術で素晴らしいワインに仕上げた“昔のネゴシアン”の本当の姿を知ってほしいと話す。実際、ポンソ氏が購入するブドウは、ワイン愛好家なら誰もが驚くような銘醸ワインの生産者から購入しているという。 「ブドウの供給先は、残念ながら約束上シークレット(笑)。皆、昔からの仲間で、私を応援してくれています。もちろん、自社畑のブドウも使っています」。 確かに、ワインを飲んでみると、その味わいは極めて優雅で、ブドウが素晴らしい畑で育ったことが理解できる。たとえば8人の生産者から購入したブドウで造る「コルトン・シャルルマーニュ グラン・クリュ キュヴェ・デュ・カリ 2020」は、それぞれに違う土壌で育ったブドウの個性がハーモニーを奏で、“ブルゴーニュ最高品質の白”であることを物語っている。また、ひとりの生産者のブドウだけで造られる赤の「ジュヴレ・シャンベルタン プルミエ・クリュ アン・エルゴ キュヴェ・デュ・メルズ 2020」は滑らかなタンニンがエレガントで、心に長い余韻を残す。 ポンソ氏は言う。 「私にとって大切なのは、グラスにワインが注がれた時、飲む人に感動を与えられるかどうか。オートクチュールのような美しさを持つワインを造りたいと思っています」。 ラック・コーポレーション ※輸入代理店のオンラインでは「在庫なし」となっていますが、「エノテカ」などのワインショップなどでは購入可能です。 BY KIMIKO ANZAI