フジロック6回演奏の圧倒的存在感、USが思い出させてくれた「ロックンロールの粋」
フジロックでは7月25日(木)の前夜祭に始まり、26日(金)はROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAに加わってのライブ+深夜のCRYSTAL PALACE TENT、27日(土)はGAN-BAN SQUARE supported by FEVER-TREEでのアコースティックギグ+DON’S CAFÉ、そして28日(日)のRED MARQUEEと、計6回ものライブをやり抜いたUS。日本では無名に等しかったフィンランドの新人バンドが予想を遥かに上回る勢いでその名を轟かせ、SNSを通して反響が広がっていく様は痛快だった。とは言え初の単独公演は500人以上入るキャパシティの渋谷WWW X。どれくらい埋まるのか興味津々だったが、評判を聞きつけた人々が駆けつけてフロアは見事に満員となった。 【画像を見る】US単独公演 熱狂のライブ写真(全15点) 定刻の7時半を数分過ぎ、BGMのリチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズ「Blank Generation」に合わせて手拍子が湧き起こるほど熱気に満ちてきた場内。やがてBGMがミッシェル・ガン・エレファントの「スモーキン・ビリー」に変わると、もうライブが始まったかのような勢いで大合唱が始まる。メンバーはフジロックのオーディエンスと日本のバンドについて予習していたらしく、敢えて「スモーキン・ビリー」をフルでかけてから登場するという気の利いた挨拶をかましてくれた。 そして1曲目は、いきなり最大限のエナジーを放出する「Black Sheep」で爆発的にスタート。アベフトシと同じくウィルコ・ジョンソンを彷彿させるテオ・ヒルヴォネン(Vo, Gt)の高速カッティング、パン・ヒルヴォネンのワイルドなハーモニカが唸りを上げる。ブルース由来のシンプルなリフをギンギンに加速させる手法は、初期のゆらゆら帝国にも通じるもの。日本のオーディエンスが彼らを気に入らないわけがない。ワイルドな演奏とは対照的に、揃いの上着に身を包み、曲が終わると深々とおじぎするスタイルは、ビートルズに代表されるブリティッシュ・ビート・バンドのイメージを意図的になぞっているはずだ。 序盤は「Citroen Blues」「Snowball Season」とアップテンポの曲をたたみかけていくが、勢いにまかせてつんのめりそうになるバンドを、ドラムのレーヴィ・ヤムサがしっかり手綱を握って制御している。レーヴィ以外の4人は前身バンドのグランドマザー・コーンで経験を積んできて息が合っているが、「レーヴィが加わってUSが始まった。グランドマザー・コーンはビートルズにとってのクォーリーメンにちょっと似ている感じ」とテオが言っていた意味が、よくわかる気がした。レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムを敬愛するレーヴィのドラミングは、底からリズムを支えていてツボを外さない。ベースのラスムス・ルオナコスキも要所を押さえつつ、煽るべきところではグイグイ煽ってくる。ふたりとも20代半ばとは信じ難い、手練れ感のある屈強なリズム隊だ。 ミドルテンポで始まる「Just My Situation」では、フジロックで歌いまくった疲れがテオのボーカルから窺えたが、声のしゃがれ具合が色気を感じさせてむしろ味わい深い。実はザ・バンドが好き、という他の曲ではわかりにくい側面も、こういうアーシーな曲で露わになっていたように思う。曲の核となるリフを担うテオに対し、もうひとりのギタリスト、マックス・ソメルヨキはジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンをフェイバリットに挙げるだけあって、ブルージーなフレーズを弾かせると熱が入る。 1stアルバム『Underground Renaissance』を聴き込んでから会場に来たファンは、スタジオ録音よりも格段にラフでパンキッシュな演奏に驚いたのでは。アルバムではそれほど荒々しく聞こえなかった「Paisley Underground」も、ステージではテオとマックスのギターがせめぎ合い、ストゥージズばりの高熱を発していた。ペン・リーのカバー「Got To Know」ではマックスがボーカルを担当、愛嬌のある見た目に似合わないガラッパチな歌唱が、テオとは異質で原曲以上のガレージ・パンク感を醸し出す。