「空想している時間は“脳汁”が出ます」―― レイトン、妖怪ウォッチの作者・日野晃博の創造性
「頭の体操」とシャーロック・ホームズ
ゲームの受託開発(デベロッパー)として順調な出だしを切ったレベルファイブだったが、日野さんはこの時点で別の方向性を考えていた。企画から宣伝、広報まですべて自社で行うパブリッシャーとしてのソフト開発だ。ただし、開発費なども自社負担のため、リスクがある。そのリスクをとって乗り出したのが、ナゾトキ・ファンタジーアドベンチャー「レイトン教授」シリーズだった。 ──パブリッシャーになろうというのはずっと考えていたことですか。 いや、もう本当にお試しでやってみるという感じです。だから、毎年やっている社員総会の場でその意向を発表したところ、レイトンの開発チームに入りたいスタッフは少なかったですね。当時、ごく少人数でレイトンをやる感じでした。リスクが大きいので、社員を不安にさせないように「あくまでも実験です」ということは繰り返し言っていました。 ──1970年代に大ヒットした本「頭の体操」のようなパズルを解いていきながら、ミステリーのようなストーリーをたどっていく。そんな「レイトン教授」ですが、どのように生み出されたのですか。 もともと「頭の体操」、僕が好きだったんです。そこで、当時「脳トレ」が流行っていたこともあり、「頭の体操」のような謎解きやパズルをベースにした作品を作ろうと考えました。レイトンという名前、シリーズは三部作構成、シャーロック・ホームズと相棒のワトソンみたいなキャラクターでのストーリー……。こうした要素も早い段階から頭にありました。
──かなりイメージがあったんですね。 はい。パブリッシャーとしてのリスクを背負って出そうということだったので、失敗はできない。会社として利益をしっかり出すが大事でした。だから、「頭の体操」の作問者だった多湖輝先生(千葉大学名誉教授)にも協力を仰ぎましたし、声優に大泉洋さんや堀北真希さんらを起用して話題作りも行った。じつは「レイトン教授」をつくりだして一番勉強になったのは、つくり方よりも宣伝でした。 ──どういうことですか。 当時3億円くらい出すのが普通の時代に、「レイトン」ははじめ宣伝費1.5億円しか使えなかったんです。なけなしのお金です。それでも、なんとか長期的に宣伝費を捻出した結果、ヒットさせることができました。宣伝費は最終的に7億円ほどにまでなっていましたが、とにかく一般に知ってもらわないと売れないというのはものすごく勉強になった。おもしろいゲームを作ったからみんな買うだろうという、甘っちょろい考えはだめだと痛感しました。 ──そういう考え方は、クリエイターよりもむしろ社長としての視点のように感じます。 両方あるでしょうね。でも、そこで売り方について学びました。その経験を踏まえて考えたのは、ゲームだけでなく、アニメやマンガなども組み合わせるクロスメディア展開です。それが次作のサッカーRPG「イナズマイレブン」やその先の「妖怪ウォッチ」につながるんです。