地面師御用達の「偽造専門の印刷屋」は東京・神田にあった…地面師グループの犯行を陰で支える”道具屋”とは
Netflixドラマで話題に火が点き、もはや国民的関心事となっている「地面師」。あの人気番組「金スマ(金曜日のスマイルたちへ)」や「アンビリ(奇跡体験!アンビリバボー)」でも地面師特集が放映され、講談社文庫『地面師』の著者である森功氏がゲスト出演した。同書はすべて事実を書いたノンフィクションであり、ネトフリドラマの主要な参考文献となっている。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションであるドラマよりも、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むほうが参考になるだろう。 地面師たちはどうやって不動産を騙し取るのか。森功著『地面師』より、抜粋してお届けしよう。 『地面師』連載第72回 『「地主の息子」が闇金業でボロ儲け!?…「人生勝ち組」だったはずの男が「地面師」の世界に身を落とすまで』より続く
犯行を組み立てやすい環境
当初、言い寄ってきた八重森たちの発想は単なる土地の転売詐欺だったと先に書いたが、福岡が登場して以降、やや方針が変わったのだという。くだんの父親の土地を担保に企業から借り入れを起こそうというものだ。 それは実際に事件になった世田谷区成城の土地を使う融資金詐欺に近い手口だといえる。成城の事件では、八重森たちが地主のなりすまし役を仕立て、振り出した小切手をもとに銀行から借り入れた金を騙し取るという手法だった。土地は債権者の担保となり、借金を返済できなければ所有権が移ってしまうが、すぐに売り払われるわけではない。したがって地主の息子としても、罪の意識が薄まる。 地面師たちにとっては、なにより親族が一味に加われば、犯行を組み立てやすい。資産家の息子は、盗賊一味の“引き込み”役のような重要な役割を担うわけだ。逗子が現実のやり口を明かした。
高度な技術を持った“道具屋”
「(彼らの指示どおり)まずは、自分が役所に行って自分の印鑑登録を申請し、それを八重森たちに手渡しました。印鑑証明はホログラムや透かしなどが入った特別な用紙に印刷されているので、本当は偽造が難しい。だが、自分の印鑑証明は本物の原紙であり、住所と姓までが父親と同じだから、そこの名前と生年月日、実印を書き換えればいい。 それも偽造には違いないけど、彼らは高度な印刷技術を持った“道具屋”を仲間に抱えているので、朝飯前なのでしょう。染谷がその道具屋と連絡を取り合い、日本橋蛎殻町にあるガソリンスタンドの交差点で待ち合わせました。自分一人で行かされました。印鑑証明を指定されたその道具屋に路上で渡しました。神田のあのあたりに偽造専門の印刷屋があるんでしょうね」 実家にある父親の実印を持ち出せば、なりすまし役が役所で本物の印鑑証明を申請できる。ただし、父親にばれるリスクもあるのでそれは避けたようだ。偽造の印刷代金は3枚で100万円。逗子は、うち印刷屋の取り分が半分だと聞かされたという。 「残りの50万円は、おそらく道具屋を手配した染谷が懐に入れているんじゃないでしょうか。染谷もカネに困っていましたから」 資産家の息子ながら裏社会を歩いてきた逗子は、以前に闇金をしていた関係で、多重債務者の顧客や知り合いが多い。その人脈を使い、この件ではなりすまし役まで手配したという。70歳代の父親と同じ年齢の債務者をなりすましに仕立て、みずから公証役場に連れて行ったそうだ。 「息子の自分が(なりすまし役の)父親を公証役場に連れて行くのだから、それは向こうも信じるでしょうね。保険証は偽造していましたけど、戸籍謄本なんかは自分がとったものですから本物です。それらの書類を使って本人確認の作業をやるわけですからね。そうして八重森たちから知り合いの企業を紹介され、そこから数千万円借りました。その借り入れのうち、約束どおり1000万円が自分の手元に来ました。残りが彼らの取り分でした」 『弁護士まで加担して「法律の抜け穴」を研究し尽くす“地面師”集団…なかなか根絶やしにできない「闇の住人」たちの実態に迫る』へ続く
森 功(ジャーナリスト)