手繰り寄せた最高の歓喜と笑顔。戦列復帰した大津MF中村健之介が自分の中心に据えるチームメイト、恩師、トレーナー、旧友への感謝
[12.15 プレミアリーグファイナル 横浜FCユース 0-3 大津高 埼玉] このファイナルの舞台に立つために、多くの人が自分を支えてくれた。ピッチに足を踏み入れると、バックスタンドから大声援を送ってくれる仲間たちの姿が、視界に飛び込んでくる。奮い立つ。絶対に勝つ。みんなのために。絶対に勝って、最高の景色を掴み取ってやる。 【写真】「えげつない爆美女」「初めて見た」「美人にも程がある」元日本代表GKの妻がピッチ登場 「スタンドで応援してくれる仲間だったり、自分がケガをした時に支えてくれたフクさん(福邑健仁トレーナー)、自分を信じて出してくれたトモさん(山城朋大監督)や平岡先生(平岡和徳テクニカルアドバイザー)、熊本で見ている方もたくさんいると思うので、感謝の気持ちを持って試合に臨みました。マジで嬉しいです!」 一番大事なシーズンの最終盤に戦列復帰してきた、大津高(熊本)の攻撃にアクセントをもたらすサイドアタッカー。MF中村健之介(3年=サンフレッチェ広島F.Cジュニアユース出身)は周囲への感謝を胸に、日本一の懸かったフィールドを全力で駆け抜けた。 WEST王者として挑んだプレミアリーグファイナル。EAST王者の横浜FCユースと対峙する一戦に、中村は左サイドハーフの位置でスタメン起用され、キックオフの笛を聞く。 どちらも慎重に立ち上がる中、大津もなかなか攻撃のギアを上げ切るまでには至らない。「自分は攻撃のテンポを上げる役割を求められている中で、ボールを受ける回数が前半は少なかったですし、ボールを受けた時も自分のところで結構流れがストップしてしまったので、もっと良い形でボールを受けられたら良かったなと思います」。多少の緊張もあって、中村も思い描いていたようなプレーは繰り出せない。 初戦敗退という悔しい結果を突き付けられたインターハイが終わってからは、内転筋の痛みに悩まされてきた。「あまり言い訳にはしたくないですけど、自分自身も練習に100パーセントで取り組みたかった中で、実際にはちょっとだけ抑えてプレーしないといけないという状況でした」。 リーグ前半戦は全11試合にスタメン出場を続けたものの、後半戦に入ると大半の試合がベンチスタート。現状の自身のパフォーマンスを考えれば、その立ち位置にも理解はしながら、もどかしい日々を過ごす。選手権予選の準決勝が終わると、より痛みが増したことで決勝も欠場。しばらくの戦線離脱を余儀なくされる。 だが、福邑健仁トレーナーの献身的なサポートもあって、少しずつ、少しずつコンディションを上げていくと、プレミア最終節の米子北高戦でスタメンに復帰し、後半16分までプレー。周囲の協力を仰ぎながら何とか大一番への準備を整え、この日のピッチに立っていた。 チームは前半45+2分にMF畑拓海(3年)のスーパーミドルで先制。「前半の最後の欲しい時に点が獲れて、ハーフタイムも『行けるぞ!行けるぞ!』という良い雰囲気で後半に挑めました」。1点のリードを得て、より大きな勇気を得たチームメイトとともに、中村も後半のピッチへ飛び出していく。 15分。ピッチサイドに交代を意味する『7』のボードが掲げられる。「個人としては自分の得意なプレーがあまり出せなかったですね」。自分自身の出来にはやや納得がいかなかったものの、残り30分あまりの時間を信頼できるチームメイトに託し、ベンチからピッチを見つめる。 リーグ戦の日常から印象的だった。試合に出ていなくても、チームメイトがゴールを決めた際に、中村は満面の笑みを浮かべてみんなで歓喜を共有する。45+3分。FW山下景司(3年)が勝負を決定付ける3点目を奪い、選手たちがピッチサイドへ向かってくると、この日もその笑顔が明るく広がった。 プレミア制覇には“旧友”たちへの想いも込められていた。中村が中学時代を過ごしたのはサンフレッチェ広島F.Cジュニアユース。当時のチームメイトたちは、1年前の埼玉スタジアム2002で青森山田高に敗れ、日本一を逃していた。彼らからもファイナルを前にして、激励のメッセージが届いていたという。 「今回のこのファイナルに出るに当たって、サンフレッチェユースの仲間からも『頑張ってこいよ』という応援のメッセージをもらって、そうやって素直に友だちを応援してくれる仲間が、大津高校のチームメイト以外にもいるんだという感謝もありましたし、試合前は『去年のサンフレッチェの分まで』という想いで試合に臨みました」。サッカーで紡いできた仲間との輪は、かけがえのない宝物だ。 ユースへの昇格が叶わず、進路先にもいくつかの候補があった中で、「森田大智さんの代の練習に参加させてもらって、言葉で表すのは難しいんですけど、『ここでやりたいな』と率直に思ったんです。『ここで3年間やったらプレーヤーとしても人としても成長できる』と感じたので、大津高校を選びました」と身を投じたこのチームで、まず一冠は成し遂げた。だが、最後の最後の集大成となる選手権の開幕はもうすぐそこまで迫っている。 「もちろんチームとしても二冠を目指してやっていくことになるんですけど、インターハイ明けから『左サイドは個人で行くところが課題だ』と言われていたので、自分が点を獲ったりアシストをしたりという、結果を出していきたいですね。優勝する喜びと自分が良いプレーをできたという喜びと、2つの喜びを味わえるように頑張りたいと思います」。 言うまでもなくチームの勝利が大前提。その上で圧倒的なパフォーマンスを見せて、全国の晴れ舞台で『大津の左サイド』を輝かせてみせる。堂々と頂点に立ったプレミア王者が高校年代二冠を成し遂げるためには、中村健之介の躍動が絶対に欠かせない。 (取材・文 土屋雅史)