〈箱根駅伝〉花田監督が武井隆次、櫛部静二と築いた「早大三羽烏」時代…明らかに実力の劣る花田に当時の瀬古利彦監督がかけたやさしい言葉
武井隆次と櫛部静二との切磋琢磨
この合宿では実業団選手のすごさも実感させられた。 本練習では、1984年のロサンゼルスオリンピック男子10000メートル7位入賞の金井豊さんと一緒に走る機会があった。 一緒にというと聞こえはいいが、金井さんが5キロ3本をやるうちの1本だけ、1000メートルのインターバル20本をやるうちの5本だけを混ぜてもらうといったかたちだった。それでも、金井さんについていけず遅れてしまった。 金井さんが50キロ走をやるときには20キロまで私も一緒に走る予定だったが、途中で遅れてしまい、金井さんの伴走をしていた車に迎えに来てもらう始末だった。 トラックシーズンに入る前の2月は、高校ではサーキットトレーニングが中心で、スピード練習はあまりやっていなかった。 今思えばできなくて当然だが、マラソンランナーはこんなにすごい練習をするのかと驚かされた。 と同時に、自分も将来はマラソンランナーになるつもりだが、はたしてこんな練習ができるようになるのかと不安になった。 とにかく、ここでしっかり土台づくりをして、スムーズに大学生活に入ろうとがんばったが、そううまくはいかなかった。金井さんたちと20キロ走をやったあと、右のアキレス腱が痛くなってしまい、合宿後半は走れない日々が続いた。 合宿から戻ってからもあまり良くならず、少し体重も増えた状態で競走部合宿所に入寮。私の学生生活がスタートした。 * 同期には、高校時代から全国トップクラスの実力を誇っていた武井隆次君と櫛部静二君がいた。 武井君は、高校生として初めて5000メートル13分台を出した選手で、前述したように、3年時の全国インターハイで1500メートルと5000メートルの二冠を成し遂げていた。 本人に言うと怒られそうだが、見た感じはおっとりしていてアスリートっぽくないのだが、練習が始まって「1周〇〇秒ペースで」と言われれば、時計を見なくてもそのとおりに正確にペースを刻む。 全国選抜合宿で一緒に練習したときに、そのすごさを肌で感じていた。 櫛部君は、3000メートル障害のインターハイチャンピオンで、高校3年時には8分44秒77の驚異的な高校記録を打ち立てている。その記録は、のちに三浦龍司選手(現・SUBARU)に塗り替えられるまで、30年もの間破られることがなかった。また、長い距離も得意としており、10000メートルの高校記録ももっていた。 一方、私の実績はというと、ジュニア選抜陸上の1500メートルで優勝はしたものの、インターハイは5位にすぎない。 武井君、櫛部君、私の同期3人は、「早大三羽烏」などと称されたが、明らかに私の実力はほかの2人に比べると劣っていた。しかも、ケガまでしていたのだから、マイナスからの出発だった。 私たち3人は、瀬古さんが勧誘して早稲田に入った初めての選手たちだ。いわば、瀬古門下の一期生ともいえる。瀬古さんの私たちに対する期待も大きかったはずだ。 武井君は高校生ナンバー1の選手で完成された選手。櫛部君は実績はもちろんだが、その走りぶりは将来が楽しみな選手。花田は、まだ専門的な練習をやっていないから未知数……。入学当時の3人の評価はこんな感じだったのではないだろうか。
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