「あんなものを使う奴の気が知れん」“紀州のドン・ファン”野﨑幸助氏は覚醒剤を忌み嫌っていた《まもなく判決》
「紀州のドン・ファン」こと野﨑幸助氏が、自宅の寝室で全裸のままの“怪死”を遂げていたのは2018年5月のことだ。その後、野﨑氏を殺害した疑いで逮捕されたのが、55歳年下の3番目の妻・須藤早貴被告である。須藤被告の裁判は今年11月に結審を迎え、年内には判決が言い渡される。須藤被告の逮捕直前に公開された記事から事件を読み解く。 【画像】野﨑氏の妻・須藤早貴被告は、殺人と覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕された
ドン・ファンと呼ばれる理由
野﨑氏が世間の注目を浴びる契機となったのは、2016年2月に報じられた窃盗事件だ。野﨑氏はその約1年前、都内の高級デートクラブで知り合った自称モデルのハーフ美女(当時27)に、自宅にあった約6000万円相当の金品を盗まれた。女性の逮捕(後に不起訴)を受け、メディアの取材に応じた野﨑氏は「1億円なんて紙屑」と言い放ち、「セックスは1回あたり40万円、経験人数は軽く4桁」などと、型破りな下半身事情も赤裸々に告白したのだ。 その強烈な個性が出版社の目に留まり、野﨑氏は同年暮れに「紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男」(講談社)を上梓。彼の怪死が“ドン・ファン事件”と呼ばれるようになった所以である。 野﨑氏の死因は「急性覚醒剤中毒死」。和歌山県警は「事件、事故の両面捜査」を強調しつつも、当初から殺人を念頭に捜査を進めてきた。 死亡状況から自然死、病死は除外され、他に考えられるのは、覚醒剤を用いた自殺か他殺、事故死。だが、野﨑氏が人知れず覚醒剤を使用していた可能性を、彼を知るほとんどの者が否定している。 野﨑氏は覚醒剤をはじめとした違法薬物を忌み嫌い、「あんなものを使う奴の気が知れん」と話していたという。そもそも、自ら覚醒剤を使って自死、あるいは事故死することなどあり得ないというわけだ。
「自殺だけは絶対にない」
加えて、野﨑氏は直後に重要なイベントを控えていた。野﨑氏が死亡する18日前の5月6日。愛犬のイブが老衰死した。彼が「全財産を遺す」と公言するほど溺愛した雌のミニチュアダックスフントだ。ほどなく野﨑氏は、南紀白浜の高級リゾートホテルにて「イブのお別れ会」を企画。6月11日の開催に向け、手あたり次第に参加者を募っていたところだった。 都内に住む知人の一人も、改めてこう証言する。 「死亡当日の午前9時頃、社長から連絡がありました。イブのお別れパーティーに必ず参加して欲しいと念押しする内容です。会を盛大にしたいらしく、『旅費や宿泊費は全額負担するから知り合いがいたら何人でも連れてきてくれ』と。社長はせっかちでしたから、その日の午後2時頃にもまた『他の参加者は見つかりましたか』と電話があり、これが社長との最後の会話になりました。自殺だけは絶対にないと思います」 結局、最後まで否定し切れないのが、覚醒剤を“凶器”とした他殺の線なのだ。捜査関係者が振り返る。 「覚醒剤成分は野﨑氏の胃と血液から検出されている。腕などには注射痕がなく、経口摂取。その場合、致死量はおよそ1グラムで、胃の中には固形物がほとんど残っていなかったため、野﨑氏が普段飲んでいたビールなどに混ぜ込んだか、カプセル剤などにして飲み込んだか。いずれにしても、覚醒剤の摂取方法としてはまず考えられず、野﨑氏の死に疑念が生まれたのはこれがきっかけだった。毛髪を調べても、常習性を裏付ける結果は出ていない。覚醒剤を入手し得る第三者が野﨑氏の死に関与した可能性は極めて高かった」 だが、容疑者を絞り込むには膨大な時間が必要だった。野﨑氏の債務者は全国に1000人以上いたほか、同氏の無軌道な女性遍歴も加わって、捜査の対象は際限なく広がった。 ◆ 本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(石垣篤志「 紀州のドン・ファン怪死 『十三億円遺言書』の真贋 」)。 「文藝春秋 電子版」(初月300円から)では、「平成アンタッチャブル事件簿」の全記事を読むことができます。 【紀州のドン・ファン怪死】「十三億円遺言書」の真贋 石垣篤志 【相模原45人殺傷】植松聖の「優生思想」を生んだもの 渡辺一史 【地下鉄サリン】オウム死刑囚との「化学式」問答 服藤恵三 【神戸連続児童殺傷】「少年A」の犯行を確信したとき 山下征士 【日産ゴーン】レバノン逃亡「検察との死闘」 西﨑伸彦 【世田谷一家殺人】未解決事件理事官が語る「真犯人」 大峯泰廣 【島根女子大生殺人】33歳真犯人はなぜ死んだか 小野一光 【住銀支店長射殺】額に撃ち込まれた「闇社会の警告」 尾島正洋 【大阪二児放置死】祖父は「十年前に戻りたい」 秋山千佳 【時津風部屋リンチ死】大相撲の「膿」は消えなかった 武田頼政 【歌舞伎町ビル火災】和解交渉人「二十年後の告白」 本橋信宏
石垣 篤志/文藝春秋 2021年6月号