金融機関を圧倒する「犯罪者のAI活用」がヤバすぎる、不正送金「年462兆円」の惨状
金融業界において、詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)、サイバー攻撃など、多くの脅威がはびこっている。そうした脅威に対し業界内では、AIを使って撃退する動きが広まっている。ところが、犯罪グループ側もまた、AIを使って詐欺や攻撃の能力を向上させている事実もある。「金融業のAI」と「犯罪者のAI」、この攻防はいまどちらが優位なのか。また金融業がなすべき対策とは何か、解説する。 【詳細な図や写真】図1:世界のAI詐欺防止市場の規模は年率24.5%で拡大する見込み(market.usより編集部作成)
2023年の不正送金額は「なんと462兆円」
金融業界において、詐欺防止やAML(アンチマネーロンダリング、以下マネロン)の必要性を改めて感じさせる出来事が10月に米国で起きた。 カナダ金融大手のトロント・ドミニオン銀行(TD)が、麻薬カルテルのマネロンに対する適切な監視を怠ったとして刑事責任を問われ、有罪となったことが報じられた。そして同行は、米司法省および財務省の金融犯罪取り締まりネットワーク(FinCEN)に対し、総額約31億ドル(約4,600億円)の巨額な罰金を支払わなければならないという。 詐欺やマネロンへの対応が不十分であれば、当局の重い処分が下る。米国など海外で営業する日本の金融機関にとっても人ごとではない。 事実、多額の取引が行われる金融・保険業界は、最もターゲットにされやすい。全米証券業協会が運営するNASDAQのグローバル金融犯罪報告書は、2023年だけでも推定3.1兆ドル(約462.3兆円)という天文学的な額の不正送金が行われたと明らかにしている。
詐欺防止AI市場は「年率24.5%」で拡大
そうした中で注目を集めるのが、機械学習(ML)によって怪しい取引にフラグを立てるAIだ。たとえば、米金融大手のバンクオブアメリカでは30人以上のデータサイエンティストやエンジニアが、リアルタイムで不審な取引を報告できるAIモデルを内製した。 米調査企業のmarket.usによれば、世界の詐欺防止AI市場の規模は2024年の151億ドル(約2.2兆円)から2033年には1,083億ドル(約16.1兆円)へ、年率24.5%で拡大することが予想されている。 不正送金は人身売買や麻薬取引といった深刻な犯罪の温床であり、AIによる検知・防止にも熱が入る。そのため、2023年の詐欺防止AI市場においてはBFSI(銀行・金融・保険)業界が26.5%と1番大きな割合を占めているのだ(図2)。 銀行・金融・保険に次いで、IT・通信、ヘルスケア、製造、小売・EC、政府・公共部門の順で需要が高い。 これだけ市場が拡大している中、犯罪者側を含めた金融業界では、具体的にどうAIを活用しているのか。