就職氷河期世代は50代をどう生きるか 社会に出る段階で辛酸をなめ、社会に出てからも世の中の変化に振り回された
熊代「『シバキ主義』を身に付けてきた私たちには『メンタルヘルスを損ねるのは自己責任』のような考え方がどこかにある気がします。 ですが、身体的にも社会的にも、これからは違うライフスタイルをとっていかなければいけない。そこは意識して準備したほうがいいでしょうね」
精神医療の治療対象の拡大が意味すること
『ないものとされた世代のわたしたち』では、精神医療の変遷についても触れています。その変遷と就職氷河期のメンタルヘルスの問題は「無縁ではない」と熊代さん。 熊代「あの頃はブラック企業という言葉がはやりました。就職氷河期の多くがメンタルヘルス不調を起こし、精神医療を受ける側に回ったと記憶しています。 その頃から発達障害やDSM(※)による診断が出てきましたが、これらは従来より広範囲の悩みを精神医療の治療対象にしました。要するに、以前は治療の対象にならなかった方も、その対象にしていったのです」 ※精神疾患の診断・統計マニュアル。アメリカ精神医学会が作成する、精神障害に関する国際的な診断基準の一つ。 精神医療を必要とする・しないの境目が大きく変わった結果、かつて「ぷっつん」「KY」「天然」と言われていたような人たちが発達障害などの診断を受けるように。
診断名がついたことは、会社内のコミュニケーションをフォローするなど良い面もあった一方、「より精度の高い労働者にならなければいけなくなったのでは」と熊代さんは指摘します。 熊代「落ち着きがない、不注意、遅刻しがちといった労働者はルールアウトする時代に変わっていったと思うんです。 第2次産業が減って第3次産業が増えたことで、例えば機械仕事が得意なASD(自閉スペクトラム症)の方が力を発揮しやすかった仕事、駅で切符を切るような仕事も減りました。 だから精神医療の受け皿が広がったことは歓迎されましたが、その分労働者に求められる精度や能力は上がったのではないでしょうか。この変化はどこまでが良かったことなのか、よく考えなければいけないと思います」