独学、大けが、コロナ禍……苦難の連続も「踊ればハッピー」 インド人ダンサーが米国で成功するまで 「コール・ミー・ダンサー」
クラシックもコンテンポラリーも
本作の前に、マニーシュをモデルにしたNetflix映画「バレエ:未来への扉」が製作され、本人役として出演している。今回のドキュメンタリーの撮影はそれ以前に始まっている。イェフダの教え子でもあったレスリー・シャンパインが監督した。「撮影は約5年、ずっと続いた。レスリーほど僕のことを知っている人はいない。家族との付き合いも長く、半生を写しとってくれた」と感謝の言葉を忘れない。 マニーシュはまもなく31歳。ニューヨークのぺリダンス・コンテンポラリー・ダンス・カンパニーに所属し、この12月も昨年に続いてクラシックバレエ「くるみ割り人形」公演で王子役として舞台に立つ予定だ。クラシックもコンテンポラリーも踊れるダンサー。「何かに固定するのではなく、何でも踊れるダンサーであり続けたい」 物腰は柔らかく、質問にも相手の目を見て答える。ちゃめっ気もある。激しい競争、いくつもの試練を乗り越えてきたはずなのに、ギラギラとした感じは全く見えない。こうしたキャラクターが、師匠イェフダや本作のレスリー監督、多くのダンス仲間たちを引き付けたのだろう。
最高レベル求め旅路を行くだけ
この先どんなダンサーを目指すのか、終着点のイメージを聞いてみた。答えはシンプル。「終着地点はないと考えている。ほかのジャンルのアーティストと同じように、ダンサーになったら、いつまでもダンサー。もちろん、いずれは現役を引退して振付師とかになったりするかもしれないけど」と晴れやかな表情で語る。 「目指す場所としてアメリカのダンスカンパニーは確かにあった。それがかなってからは、次の日、また次の日と旅を続けている。一つの山に登っても、次に登るべき山がその後ろにある。終点はなく、ただ旅路だけがあるのだと思っている。旅路を経ることで人として、僕の場合はダンサーとしてより良くなれる」。疲れてしまうこともあるのでは、と少しいじわるに尋ねてみたら「疲れは感じない」と、さも当然といった答えが返ってきた。 現役ダンサーとして自身に課しているのは「何があっても最大限の力を尽くすこと。クラシックもコンテンポラリーも、常に最高レベルのものを表現したい」と歯切れがいい。「未来はどうなるか分からないと、身をもって経験してきた。ダンサーとしての今に100%向き合うことを何よりも大切にしていきたい」
映画記者 鈴木隆