ベースは自社初のサルーン ヒーレー・シルバーストン(2) アマチュアドライバーを支えた傑作
古き良き音響へブロワーの悲鳴が重なる
それ以外は、オリジナル状態が保たれている。ブロワーはエンジンブロックの前方、フロントグリルから見える位置に収まり、光の加減で鈍く光る。グリル内に並んでいたヘッドライトは、サイクルフェンダーを固定するアーム側へ移動されている。 最高出力は、推定で142ps。当初の105psから大幅に増強されているが、シルバーストン・サーキットは75年前から大幅に改修され、安全性も高い。ドライバーが圧倒される心配はないだろう。 コクピットはミニマリスティック。3スポークの大きなステアリングホイールの後ろへ、筆者の身体がピッタリ収まる。シートポジションを目一杯落としても、フロントガラスのフレームが視界へかかる。 フラットなダッシュボードの正面には、6000rpmまで振られた巨大なタコメーター。助手席側には、同サイズで時速120マイルまで振られたスピードメーターが並ぶ。7枚の補助メーターが、その周囲を埋める。 ペダルの間隔は広く、ヒール&トウしやすい。ライレー社製4速マニュアルのシフトレバーが、握りやすい場所へ伸びる。ステアリングホイールは低速で重めだが、速度域が上がると徐々に軽くなっていく。 助手席側のサイドから排気ガスが放出され、ドライなエグゾーストノートが心地良い。古き良き音響へ、ブロワーの悲鳴が僅かにオーバーラップする。
笑ってしまうほどテールスライドしやすい
低回転域からトルクフルで、発進時から扱いやすい。予想より1段高いギアで、コーナリングできる。車重は940kgと軽く、コースの幅を利用すれば、減速を最小限に抑えられる。笑ってしまうほどテールスライドしやすいが、リカバーも面白いほど難しくない。 公道に出ても、1950年代初期のモデルとしては痛快。スーパーチャージャーの加算するトルクが、効果的に働く。ステアリングは重めだが、現代的なモデルのように積極的にシフトダウンして、更なるパワーも求めたくなる。 唯一、低速のタイト・コーナーは苦手な様子。計画的にカーブへ侵入しなければ、滑らかな脱出は難しい。ブレーキペダルは、かなり力を込めなければ期待通りの制動力は得られない。踏み初めのフィーリングも柔らかい。 とはいえ、荒れた路面でも乗り心地はしなやか。カーブが連続する区間でも、姿勢制御は安定している。フロントタイヤのグリップも充分に高い。 グレートブリテン島でサーキットが増え始めた1950年代に、英国では多くの優れた技術者が活躍した。ドナルド・ヒーレー・モーター社を立ち上げたドナルド・ヒーレー氏は、その際たる1人といえた。 市場のトレンドを見抜く力にも長けていた。巧みに技術を展開し、資金力に関わらず、モータースポーツを志す人を支えた。シルバーストンは、もっと多く生産されるべきだった傑作といえる。 協力:ウォーレン・ケネディ氏、ジョナサン・ギル氏、シルバーストーン・サーキット
ヒーレー・シルバーストン(1949~1950年/英国仕様)のスペック
英国価格:975ポンド(新車時)/22万ポンド(約4224万円/現在)以下 生産数:108台(コンバージョン3台を含む) 全長:4260mm 全幅:1600mm 全高:1371mm 最高速度:177km/h 0-96km/h加速:11.0秒 燃費:7.7km/L CO2排出量:-g/km 車両重量:940kg パワートレイン:直列4気筒2443cc 自然吸気 使用燃料:ガソリン 最高出力:105ps/4500rpm 最大トルク:18.2kg-m/3000rpm トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
サイモン・ハックナル(執筆) トニー・ベイカー(撮影) 中嶋健治(翻訳)