若手医師が「直美」のキャリアに走る事情、美容医療を選択する要因はいくつもある
今、美容医療や自由診療の医療機関で働く医師が増えている。その傾向は、若い医師たちに顕著だ。 【図で見る】初期研修の修了後すぐに美容科に行くケースも ある試算によれば、年間約200人が美容医療に進んでいるという。毎年、医師になるのが全体で約9000人であることを考えると、決して少なくはない数字だ。卒業後2年間の初期研修を終えると直接、美容医療業界に進む若者が増えており、「直美(ちょくび)」と呼ばれている。 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によれば、皮膚科医や美容外科医といった、美容関連の医師数は増え続けている。とくに美容外科医の増え方は大きく、2004年から2022年までで3.5倍超に増えた。
■新専門医の制度も一因 若手が美容医療を選択する要因は、いくつもある。 まずは、給与格差だ。大学病院の研修医の年間給与は400万円から500万円の間。これに対し美容クリニックでは、1年目で2000万円を超える例もある。 2018年に始まった新専門医制度も一因だ。新制度では、専門医資格を取得するため、3~4年間の研修プログラムに進むことが必要となる。このとき、研修先の希望が都市部に集中しないよう、都市部では専門科ごとに定員の上限が設定された。
本人の希望にかかわらず、地方や僻地で勤務するケースも生じており、これが若手が都市部の美容外科に就職する理由の1つになっている。 さらに、今年4月に始まった医師の働き方改革も悪影響を与えている。時間外労働に上限が設定されたため、アルバイトで生計を立てていた若手医師の収入が減るケースも出ているのだ。 「このような状況を上回る医師の魅力というものを、われわれ中堅が若手に提示できていないというのも残念なところではある」。あるベテラン医師は、このように話す。
■医師の偏在は解決するのか 厚生労働省は、11月に行った「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書案の中で、「直美」の存在について「医師の偏在是正の観点からも、引き続き、厚生労働省において別途必要な検討をしていく必要がある」と触れている。今後、美容医療という医師の選択肢が、何らかの形で制限される可能性はあるだろう。 しかしこのような制限だけで、医師の偏在は解決するのだろうか。 【東洋経済オンラインの「有料版」では、美容医療や自由診療の医療機関で働く医師が増えている実態について、現場の医師の声を交えて詳報している】
兵頭 輝夏 :東洋経済 記者