勝機をつかんだ「10円シュークリーム」 シャトレーゼが“おいしいのに安い”秘密
ロイヤリティなしのフランチャイズで共存共栄
弊社は1970年代からフランチャイズ方式(以下、FC)を採用しており、現在国内740店、海外に160店ほどになっています。 FCの輪がここまで広がってきた要因としては、第一に「三喜経営」の理念に共感していただいているからでしょう。あと、よく驚かれるのですが、弊社がロイヤリティを一切いただいていないこともあるのかもしれません。 弊社ではFC店のオーナーや店長はみんな「仲間」だと考えています。本部がお菓子をつくり、FC店がそれを売るという「支え合い」で成り立っているのです。 FC店のオーナーや店長には、オペレーションはもちろんのこと、弊社の理念もしっかりと共有し、実践してもらいます。失敗するFC店は、自己中心的な考え方で運営されているケースがよく見受けられます。 たとえば、商品が残ると損をするからと、理由をつけて返品をして、3時頃に売り切れてしまうお店がありました。 それは一見うまくやっているようでも、実際はそうではありません。販売機会の損失が大きいうえに、お客様に残念な思いをさせてファンを減らしています。そうした前例をお伝えしながら、共存共栄の考え方を理解してもらいます。 また、ここ数年はコロナの影響でできていませんが、全国のFCオーナーが一堂に会する大会を年1回催しています。これは、われわれが通信簿をもらうようなものだと思っています。なぜなら皆さんの顔を見ると、お店の経営状況がはっきりとわかるからです。ニコニコしている人は経営が順調、私から目を逸らす人はうまくいっていない。 でも、そんな人もうまくいっているお店での「三喜経営」の取り組みを聞くうちに、また前向きな表情を浮かべるようになってくるので、わざわざ足を運んでいただくだけの価値は十分にあると感じています。今年(2023年)あたりからまた再開したいですね。
200名以上の“社長”が活躍するプレジデント制
最後に、「社員に喜ばれる経営」については、第一に社員たちの頑張りをしっかり評価し、それに報いることが大切なのはいうまでもないでしょう。弊社では冒頭で述べた給与アップ以外にも、業績目標が達成できた年には決算前に利益の1割を決算賞与として社員に配分することにしています。 また弊社では、各商品ブランドや事業の責任者を"社長"として経営にあたってもらう「プレジデント制」という制度を設けており、事業計画を達成したプレジデントには報奨金が支給されます。今では90近くあるすべてのラインにプレジデントを置いており、間接部門も含めると200名強になります。 私がプレジデントたちにいつも言っているのは、どんなときでも「三喜経営」の考え方にもとづいて経営判断をすること。もう1つは、事業を「自分の家業」だと思ってやることです。 やはり家業だと思えば、お金の使い方も変わってきます。たとえば会社では電気をつけっぱなしにしていても、家だと「もったいない」と思って節約するでしょう。この「もったいない」という気持ちが非常に大事で、まさに経営の原点であると思います。 この制度の大きな利点は、プレジデントと私の距離が近くなることです。通常であれば、社長の下に役員、その下に工場長がいて、そしてライン長につながります。しかし、これでは現場からの報告が上がってくるまで時間を要し、対応が遅れます。 何でもそうでしょうが、やってみて悪いところがあればすぐにやめ、いいところはどんどん伸ばす。そのためにはスピード感が大切です。現場の声が直接私に届くようになったことで、スピーディーに物事が進むようになりました。 現在、プレジデントは30代~40代が中心ですが、これからはやる気のある人や若手社員の起用を推し進め、責任者として活躍できる場をどんどん提供していきたいと考えています。 そうすれば若い頃から経営感覚を身につけた人材が育ちますし、他の社員の刺激にもなります。若手社員にプレジデントを任せて大丈夫かと不安に思う声もあるかもしれませんが、挑戦の結果、うまくいかなかったとしても、その経験を糧として勉強し直し、次のチャンスに臨めばいいのです。 それこそ私が経営者となったのは、20歳のときでしたから。学歴や年齢に関係なく、やる気のある人に実践経験を積ませ、将来の経営者に育てていこうと考えています。 シャトレーゼはこれからも新たな事業展開に挑戦し続けていきます。お客様にゆっくりと買い物を楽しんでいただきたいとの考えから、これまでは郊外型の店舗が中心でしたが、2019年秋に都市型の新たな業態「YATSUDOKI」(ヤツドキ)を始めました。シャトレーゼのお菓子を手に取る機会のなかった地域の方々にも喜びをお届けしていきます。 さらには、本業を通じて地域社会や地球環境のためになることにも、よりいっそう貢献していきたい。おいしいものをリーズナブルに提供するだけでなく、皆様に「シャトレーゼは世の中のためにこんなこともやっているんだ」と共感し、喜んでもらえる取り組みを広げていきたいと思っています。 【齊藤寛(さいとう・ひろし)】 株式会社シャトレーゼホールディングス代表取締役会長。1934年、山梨県生まれ。’54年、20歳のときに焼き菓子店「甘太郎」を創業。5年後、有限会社甘太郎を設立し、代表取締役に就任。’64年にアイスクリーム業界に参入。’67年、10円シュークリームを発売、同年、株式会社シャトレーゼに社名変更。2008年、代表取締役会長に就任。’10年、シャトレーゼをはじめ、ワイナリー事業、リゾート事業、ゴルフ事業などを統括して株式会社シャトレーゼホールディングスに商号変更し、代表取締役社長に就任、新設分割会社株式会社シャトレーゼを設立。’18年から代表取締役会長。株式会社シャトレーゼの代表取締役会長も兼任。 株式会社シャトレーゼホールディングス本社:山梨県甲府市/創業:1954年/事業内容:菓子、ワイナリー、ホテル、ゴルフなどの各事業を中心とした企業グループの企画・管理
齊藤寛(株式会社シャトレーゼホールディングス会長)