光の吸収率99.4%! 宇宙でも使える頑丈な超黒色膜を開発
望遠鏡やカメラのような光学機器では、光を反射や屈折させるだけでなく、不要な光を遮断することも重要です。光を99%以上吸収する黒色物質はいくつか開発されていますが、非常にもろい構造をしているなどの理由で、過酷な宇宙空間での使用に耐えられるか疑問視されていました。 上海理工大学のJianfei Jin氏などの研究チームは、非常に頑丈な超黒色膜(ウルトラブラックフィルム)を開発しました。これは炭化チタンアルミニウムと二酸化ケイ素を交互に重ねたもので、紫外線から近赤外線までの幅広い波長の光を平均99.4%吸収します (※)。また、これまでの黒色物質と違い、熱や摩擦といった物理的なダメージに強く、ほとんど吸収率が低下しません。これらの性質から、この超黒色膜は宇宙のような過酷な環境でも使用できる可能性があります。 ※…平均吸収率について、論文では99.4%となっている一方、プレスリリースでは99.3%となっています。本記事では論文の数値を引用しています。
■とても黒い物質は繊細で使いにくい
望遠鏡やカメラのような光学機器で重要な部品と言えば、真っ先に思い浮かぶのは反射鏡やレンズなどの光が直接当たる部分でしょう。しかし、暗い光も捉えて鮮明な画像を得るには、余計な光が撮像素子(イメージセンサー)に当たらないことも重要です。 不要な光を遮断するには、本体内部で光を吸収するための黒色物質が必要となります。身近なところにある黒い色をした物質は、入射した光を約96~98%を吸収します。しかし、高性能な光学機器で使用される黒色物質には99%以上の吸収率が求められます。この10年ほどの間に次々と開発された超黒色物質 (スーパーブラック又はウルトラブラックとも呼ばれる) では、最大で99.9%以上の吸収率が実現されています。 このような超黒色物質は、表面構造が極めて複雑です。いくら黒い物質と言っても、1回の入射では全ての光を吸収しきれずに一部が反射されます。表面で何度も屈折や反射を繰り返させることで光が吸収される回数を増やし、結果的に入射した光のほとんどを吸収するという設計をしているため、表面の構造が複雑になるのです。 この設計思想の下で開発された超黒色物質は、垂直に配列したカーボンナノチューブ、剣山のように無数の針が並んだケイ素 (シリコン) 、屈折率の高い球や格子を配置するなどの工夫をこらすことで、高い光の吸収率を実現しています。しかし、高い吸収率を実現するために繊細な表面構造をしていることから、熱や摩擦などの物理的ダメージに弱く、簡単に壊れてしまいます。また、構造を作るためのコストも高い傾向にあります。 いくつかの超黒色物質は幾分かダメージに強いものの、その代わりに吸収できる光の角度や波長が限られています。また、塗布可能な材料の組成が限定されていたり、角や曲面などの形状によって性能が低下するなど、難点も多くあります。