光の吸収率99.4%! 宇宙でも使える頑丈な超黒色膜を開発
■極めて頑丈な超黒色膜を開発
Jin氏らの研究チームは、原子層堆積法と呼ばれる技術を使用した、新しい超黒色膜の開発に成功しました。原子層堆積法とは、材料の表面に気体を付着させて薄い膜を堆積させる技術です。簡単に言えば、ガラスに息を吹きかけると水が付着して曇る現象と似ています。原子層堆積法では付着後に化学変化が起こるため、気体物質が別の固体物質に変化して固着します。 原子層堆積法は、極めて薄い膜を一定の厚さで作ることができます。この薄膜は平面だけでなく、角や曲面のような複雑な形状の表面にも堆積させることができるという利点があります。また、製造コストが比較的低く、高温に弱い物質にも使えるという利点もあります。 Jin氏らは過去の研究を参考にした上で、超黒色膜をマグネシウム合金に付着させる実験を行いました。マグネシウム合金は軽量かつ頑丈であり、人工衛星などの宇宙分野で多用されています。一方で、塩素化合物などを使う原子層堆積法は化学的な性質から使いにくいという難点もありました。
Jin氏らは、マグネシウム合金の表面に超黒色膜とは別の薄膜 (酸化アルミニウムと酸化チタン) を施すことで、従来の原子層堆積法の難点を克服しました。複雑な表面でも性能を損なうことなくコーティングできる原子層堆積法の利点を活かし、この薄膜の上に光を吸収する炭化チタンアルミニウムと、屈折率の低い二酸化ケイ素を交互に重ねることで、超黒色膜を実現したのです。 この超黒色膜は平均の吸収率が99.4%と、一見すると他の超黒色物質と比べてやや低い吸収率であるように思えます。しかし、この平均吸収率は紫外線 (400nm) から近赤外線 (1000nm) までの幅広い光での平均値であり、極めて広い波長でも高い吸収率を実現している点が注目されます。 また、テープを貼り付けて剥がす、消しゴムを当てる、マイナス100℃からプラス100℃への温度変化を100回繰り返すなどの物理的なダメージを与えても、剥離する兆候は見られず、99.0%以上の吸収率を維持しました。大きなダメージを与えるには紙やすりでこするような強い摩擦を与える必要があり、極めて頑丈であることが分かります。