40年間"事件取材の鬼"だった62歳が新聞社を退職し「短大の保育学科に入りたい」と告げた時の妻の辛口対応
■今の若者も捨てたものではない 学生生活で特に印象に残っていることが2つある。ひとつは、共に学んだ若者たちの姿だ。多くの可能性を秘めていて、まだ18~20歳前後にもかかわらずしっかりと自分の目標を持っている。そして、それを実現するためにこうするんだという考えに揺るぎがない。 「今の選挙権年齢は満18歳以上。この人たちが選挙に行って自分の意見を主張していくんだと思うと、日本の腐った政治もちょっとはよくなっていくんじゃないか、そんな可能性すら感じました」 もうひとつはピアノだ。 保育学科の卒業にはピアノ関連の単位取得が不可欠だが、緒方さんはまったくの未経験者。愛煙するセブンスター60個分の身銭を切って電子ピアノを購入し、「おかたづけ」や「ミッキーマウス・マーチ」など、全64曲にもおよぶ課題曲を必死で練習したという。 途中、何度も心が折れかけたそうで、緒方さんは「いやぁピアノってほんと難しいですね」と苦笑いしながら振り返った。 ■迫力満点の「かたつむり」 現在は、朝日カルチャーセンターで事件・犯罪講座の講師を務めながら、子どもや子育てにまつわる社会課題について取材や発信を続けている。そこでは、近いうちにピアノと歌も披露する予定だ。 「そこに向けて、今『かたつむり』を練習中なんです。で~んでんむ~しむしか~たつむりぃ~……」 童謡なのにドスのきいた歌声。そしてこぶしが回っている。 コワモテな風貌とユーモラスな言動とのギャップは緒方さんの魅力のひとつだが、それ以上に魅力的に映ったのは、豊富な経験や実績を一切鼻にかけない謙虚な姿勢だ。だからこそ若い同級生たちにも親しまれたのだろうと思う。 子どもを守りたいという目標に向かって、「だからこうするんだ」と揺るぎなく突き進む。緒方さんが語った同級生たちへの印象は、そのまま本人にも当てはまる。 目指す保育士資格を手に入れて、お次はどちらへ歩き出そうか──。まだ道半ば、緒方さんの歩みはこれからも続く。 ---------- 辻村 洋子(つじむら・ようこ) フリーランスライター 岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。 ----------
フリーランスライター 辻村 洋子