急増する高校生の不登校 孤立深める前に…「家や学校とは別」の場所で支える取り組み
不登校やひきこもりになった高校生世代を支えようと、居場所となるスペースが11月、宮崎県南西部の三股町にオープンした。義務教育世代は不登校になってもどこかの学校に在籍し続けるが、高校生は中退に結び付きやすく、社会的に孤立しかねない。高校生の不登校が過去最多となる中、子どもたちの遊び場を運営してきたNPOがこの世代に焦点を当てて活動を始めた。 【写真】ヒミツキチが開催するプレーパーク。子どもたちが伸びやかに遊んでいる 古い一軒家を利用した居場所の名前は「パーク.ユース&ブック&デザイン」(通称パーク)。四つの部屋の壁をなくして筋交いだけで仕切り、テーブルを囲んで談話できる場所もあれば、窓辺には勉強や読書ができるようカウンター式の机に椅子が並ぶ。壁で隔てた別の空間にはソファを置き、独りで静かに過ごせる場所を確保した。 運営するNPO法人「ヒミツキチ」(宮崎市)の山下朋子理事長(54)は「家や学校とは別に、安心して過ごせる第3の場所が必要と考えた」と開設の動機を語る。 背景にあるのは不登校の高校生の急増だ。文部科学省の調査によると、新型コロナウイルス感染症に対する最初の緊急事態宣言が出た2020年度と比べ、23年度は1・6倍の6万8770人で過去最多だった。 課題の深刻さは人口約2万5千人の三股町でも変わらない。パークは支援対象を15~20歳と想定し、スタッフ3人で今年8月から試行。約3カ月間の利用者は町外からも含めて36人で、うち2割近くが「生きづらさ」を抱える若者という。 パートナーを頻繁に代える親元で育ち、親戚や友人の家を転々としながらアルバイトで生活費を稼ぐ人、中学時代に担任教師の言葉に傷つき学校に通えなくなった人…。こうした若者が訪れ、スタッフと交流を重ねるうちに通信制高校に入学したり、再訪はできずともSNSを使って関係を維持したりしているという。 ヒミツキチは15年に発足し、宮崎市で放課後の小学生を中心にしたプレーパーク(冒険遊び場)を提供してきた。プレーパークとは大人は見守りながらも指示や口出しは控え、学年の異なる子どもたちが一緒になってたき火をしたり、木材工作をしたりして思いきり遊べる場のこと。 「けがをしそうなことはさせないなど、今の世の中は大人が先回りして子どもから危ないことを排除しがち」と山下さんは指摘し、「野外で遊び、自然と触れ合う経験を通して自分で考え、感情を表現することが大事だ」と強調する。 コロナ禍以降、活動の中で不登校の子を持つ複数の保護者から「実は高校生世代の兄姉が学校に行っていない」と悩みを打ち明けられた。三股町でもプレーパークの研修で同様の話が出たため、町の社会福祉協議会と話し合い、居場所となるパークを準備してきた。 実現に至るまでには山下さんらの熱意に加え、地域福祉に力を入れてきた三股町の環境、そして資金調達における工夫も大きい。 町の社協は6年前から経済的に厳しい子育て家庭に対し、1カ月に1人当たり10食分の食材を無料で宅配。この事業を立ち上げた松崎亮さんは「宅配で家庭を回り、悩む中高生を多く見てきた。温かいまなざしで彼らに伴走する場はなかなかない」と語り、社協で山下さんらの活動に協力してきた。パークとなった家も、社協の職員から親族が所有する空き家を紹介されて使えるようになった。 資金面では金融機関の休眠預金を活用した支援事業に申請し、その助成金を空き家の改修や運営費に充てている。申請を採択した資金分配団体のレディーフォー(東京)は「義務教育ではない高校生世代の子育て家庭には公的支援が手薄い。地域全体で高校生の居場所問題を解決するモデルケースになってほしい」と期待を込める。 山下さんは高校生世代の支援に取り組み、新たな課題にも気付いたという。それは「保護者の姿が見えにくいこと」。いくら若者を直接サポートしても、家庭が安定しなければ根本的な解決に至るのは難しい。「中学生段階から支援を始め、親とつながることも考えたい」と話している。 (神屋由紀子)
メモ
「パーク.ユース&ブック&デザイン」は11月9日に正式オープンした。利用できるのは毎週火、木、金曜日の午前10時~午後6時で、スタッフが常駐している。談話室や自習室のほかキッチンカフェもあり、15~20歳の飲食は無料。年代を問わないワークショップなども開催する。 宮崎市でのプレーパークは小松台公園で、毎週水曜日(祝日を除く)の午後3~5時に開いている。問い合わせはヒミツキチの電話=070(1388)5589、メール=info@himitsukichi.org=へ。