退職金とiDeCoを一時金で受け取る人が知っておきたい「退職金の5年ルール」
老後のための備えとして、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している人は多いでしょう。しかし、退職金とiDeCoの受け取り方次第では、支払う税金が大幅に変わってくる可能性があります。 今回は、一時金を受け取るときに注意すべきタイミングや、退職金とiDeCoの関係について解説します。 ▼定年退職時に、「1000万円」以上の貯蓄がある割合は日本でどれくらい?
iDeCoの受け取り方
iDeCoの受け取り方には、以下の3通りがあります。 1. 一時金での受け取り(一括受取) 2. 年金での受け取り(分割受取) 3. 一時金と年金を併用した受け取り このなかでかかる税金の額がもっとも少ないのは、1の「一時金として受け取る方法」といわれています。なぜならば、退職金とiDeCoを一時金で受け取ると「退職所得」として扱われ、退職所得控除を利用することができるからです。
一時金として受け取る際のポイント
まず確認すべきなのは、会社の退職金です。iDeCoを一時金の形で受け取る場合、会社の退職金があると、どちらを先に受け取るかで、税額が変わってくるからです。 退職金とiDeCoを一時金として受け取るタイミングには、3つのパターンがあります。具体例として、Aさん(60歳)の場合を見てみましょう。 ・勤続年数:30年 ・退職一時金:1800万円 ・iDeCo:500万円(拠出15年) ■1.退職金とiDeCoを同時に一時金として受け取る場合 まず、60歳のときに退職金とiDeCoの一時金を、両方とも受け取った場合です。 ・退職所得控除(※1):800万円+(30年-20年)×70万円=1500万円 (※1)退職所得控除の計算式 ・勤続年数20年以下…40万円×勤続年数 ・勤続年数20年超…800万円+70万円×(勤続年数-20年)(=退職所得控除額) ・退職金+iDeCo:1800万円+500万円=2300万円 ・両方同時に一時金として受け取る場合の税額: (2300万円-1500万円)×1/2=400万円(=課税所得金額(※2)) 400万円×(所得税率)20%-42万7500円=37万2500円 (※2)課税所得金額=(退職一時金-退職所得控除額)×1/2 退職金とiDeCoの一時金を同時に受け取ると、かかる税金の総額は37万2500円となり、結果として退職所得控除額をオーバーしてしまいます。 ■2.60歳のときに退職金を一時金で受け取った後、61歳のときにiDeCoを一時金で受け取る場合 次に、60歳で退職金、61歳でiDeCoの一時金を受け取った場合です。 ・退職金:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円(=課税所得金額) 150万円×5%=7万5000円(=税額)…(1) ・iDeCo:500万円×1/2=250万円(=課税所得金額の金額)(※3) 250万円×10%-9万7500円=15万2500円(=税額)…(2) (1)+(2)=22万7500円 (※3)退職所得控除は使えませんが、「2分の1課税」は適用されます。 それぞれにかかる税額は別々に計算されますが、退職金にかかる税金の総額は22万7500円となります。 結果として、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合より、所得税の金額を14万5000円(=37万2500円-22万7500円)減らせることになります。iDeCoを受け取る時期を退職金よりも1年遅らせるだけで、大きな節税効果があります。 退職金の受け取り時期が60歳と決まっている場合は、iDeCoの一時金の受け取り時期はその翌年以降に回しましょう。 ■3.60歳のときにiDeCoを一時金で受け取った後、65歳のときに退職金を一時金で受け取る場合 最後に、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で退職金を受け取った場合です。 ・iDeCo: 退職所得:500万円-600万円 退職所得ゼロ、非課税で受け取れます。 ・退職金:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円(=課税所得金額の金額) 150万円×5%=7万5000円(=税額) 退職金にかかる税金の総額は、「7万5000円」となります。 結果として、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合より、所得税の金額を29万7500円(=37万2500円-7万5000円)減らせることになります。このように、先にiDeCoの一時金を受け取り、後から退職金を受け取る場合は退職所得控除の「5年ルール」が適用されます。 5年以上あける形で受け取るタイミングをずらすと、それぞれの退職所得控除が活用できるため、税制上有利に受け取ることができるのです。
まとめ
まずは、自分のライフプランに合わせ、退職金を受け取ることが大切です。 iDeCoを一時金で受け取り、その後5年以上あけて退職金を一時金で受け取ると、一番お得になるので特におすすめです。かかる税額を抑えたいなら、このように「退職金5年ルール」を活用するのがよいでしょう。 出典 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得) 国税庁 No.2260 所得税の税率 執筆者:水上克朗 ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
ファイナンシャルフィールド編集部