ゆりあん主演『極悪女王』の監督・白石和彌、師からの言葉を胸に築いたバイオレンスな地位
バイオレンスアクションを突き詰めて
映画監督・白石和彌の評価を決定的なものにした作品をひとつ挙げるとしたら、迷うことなく『孤狼の血』('18年)だろう。 『孤狼の血』は清濁併せのむベテラン刑事の大上(役所広司)と清廉な若手刑事・日岡(松坂桃李)の相反するバディムービー。警察と暴力団組織、マスコミがそれぞれ自分の追い求める正義や復讐に向けて突き進んでいく。 強烈なバイオレンスと秀逸なストーリーテリングによって灼熱を帯びた人生を生きる男たちを描き、コンプライアンス重視の世相に風穴をあけた。 まるで『仁義なき戦い』シリーズを思わせるような作品に、東映からオファーがあった際、撮らなければ絶対に後悔すると思い、白石は引き受けた。 「『仁義なき戦い』の時代は、スタッフや俳優陣がモデルになったヤクザと兄弟分になってリアルに撮っていた。今あれをやったらリアリティーもないし、ファンタジーになってしまう。主人公を役所さんが引き受けてくれなかったら、実現できなかったと思います」 ハリウッドデビューも果たした国際的なスターの役所を迎えて、さすがの白石も緊張したという。 思い出すのは撮影初日のファーストカット。カットがかかると、 「いやぁ緊張した。俺、ヤクザに見えていたかな、監督」 「いやいや、ヤクザじゃないから。ヤクザっぽい警察です」 「あ、そうだ。俺、警察!!」 このやりとりにはスタッフも大爆笑。一気に現場の空気が和んだという。 「これも僕らの緊張をほぐすためにやってくれたんじゃないかな」 そう白石は当時を振り返る。 『孤狼の血』は'18年5月に封切られ、興行収入8億円に迫るヒットを記録。さらに同作は日本アカデミー賞で作品賞、監督賞など優秀賞12部門。役所広司の最優秀主演男優賞、松坂桃李の最優秀助演男優賞など最優秀賞4部門を受賞する快挙を成し遂げた。 しかし'21年に公開された続編『孤狼の血 LEVEL2』は、コロナ禍でもあり製作は困難を極めた。 「前作が続編を意識せず、柚月裕子さんの原作とは違う結末を描いてしまったため、続編はオリジナル脚本で勝負することになりました。ところが私がフジテレビの連ドラが終わったばかりでまったく書けなかった。何も言わずに待ってくれた白石監督には感謝しています」(池上) こうしてできあがったオリジナル脚本は思っていた以上に素晴らしかった。 「何といっても日岡と超弩級のヤクザ、上林(鈴木亮平)の対決が魅力的に描かれていた。そしてヤクザを描くには不可欠の差別問題を入れたことで、物語により深みが加わったと思います」 ラストの日岡と上林のカーアクションを含む死闘が、広島県呉市で3日間にわたって撮影され、手に汗握るハードアクションの連続に観客は酔いしれた。前作を上回る高収益を上げた『孤狼の血 LEVEL2』。 くしくも『仁義なき戦い』から50年余りがたち、白石は東映の王道をいくバイオレンスアクションを撮れる監督として、確固たる地位を築くこととなった。