発達障害の子が正解しづらい「サリー・アン課題」とは? 他人の心を理解しにくい理由
自分の心の延長線上に他者の心を考える
人は内省することで「自己理解」を深めます。自分の感じ方や考え方を把握できるようになると、今度は他者を理解するときに、このパターンを応用します。 他者にも、自分と同じように他者の心があり、感じ、考えているはずだと、他者を理解するようになるのです。 「あの人が涙を流しているのは、きっと私が泣いているときに感じているような悲しみを感じているからに違いない」 相手の言動から、その心理状態や思考を推測し、共感を抱くようになります。 メンタライジングとは、このように自己と他者に異なる視点があることを理解するだけでなく、自己と他者双方の感情や思考を理解する複雑な能力のことをいいます。「心の理論」を習得する4~5歳以降に発達し、大人になってからも発達しつづけます。
心の訓練の機会・時間が足りないまま大人になっていく
こうしてみると人の心の能力には驚嘆すべきものがあります。 人の心のなかには「自分を俯瞰して見る他者(自己)」がいて、他者とやりとりする際には、瞬時に相手の心を推測し、同時に自己の心を客観的に把握しながら、コミュニケーションをとるのです。 定型発達の人は自然に「心の理論」やメンタライジングが発達するので、これを「当たり前」だと感じています。しかし、発達障害やギフテッドの人の場合、発達段階が定型発達の人とは異なり、これらの発達に遅れが生じます。彼らには当たり前のことではないのです。 発達の遅れはいずれ追いつくかもしれませんが、彼らがこうした能力を獲得する時期には、すでに小学校にあがり、人間関係は複雑になり、学業も忙しくなっています。保育園や幼稚園でこれらの能力を訓練し、定着させてきた定型発達の子とは状況が違います。発達障害やギフテッドの子が「心の理論」やメンタライジングを訓練する機会、時間が、圧倒的に足りません。 これらの能力が未熟なまま、中学・高校へと進学し、社会に出ていくため、社会性の問題で生きづらさを感じざるを得なくなるのです
宮尾益知(監修)