発達障害の子が正解しづらい「サリー・アン課題」とは? 他人の心を理解しにくい理由
発達障害の子は他者の心に気づくのが遅い
人はどうやって他者の心を理解しているのでしょうか。心理学では、イギリスの心理学者バロン・コーエン博士の「心の理論(Theory ofmind=ToM)」説が有名です。
アタッチメントを通じて、他者の心が理解できる
心の理論とは、他者の心を類推し、理解する能力です。 他者は自分とは異なる心をもつ存在です。人は「相手が自分とは異なった状況や心の状態をもつ」ことを理解したうえで、相手の行動や感情を推測して行動しています。 ところが、小さい子どもは他者に自分と異なる心があることがわからず、相手の行動が類推できません。3~4歳頃、アタッチメントがしっかり形成されると親子関係を通じて「自己」と「他者」が認識できるようになり、他者には他者の視点があることが理解できるようになります。 このため、定型発達の子どもでは4歳前後になると「心の理論」が発達するとされています。
「サリー・アン課題」でわかる立場の類推
「心の理論」の発達をはかるのに用いられる心理検査が「サリー・アン課題」です。 部屋にサリーとアンというふたりの女の子がいます。 サリーは自分のバスケットにビー玉を入れて、部屋を出ます。するとアンはサリーのバスケットからビー玉をとり出し、自分の箱に入れます。さて、サリーが戻ってきたとき、ビー玉をとり出すためにどこを探すでしょうか。 3歳以下の子に尋ねると、いまビー玉がある場所、つまり箱を指します。サリーの視点がわからないからです。一方、4~5歳以上の定型発達の子どもたちは、ほとんどみんな「バスケットを探す」と正しく答えます。これは、子どもたちがサリーの立場になって考えることができ、すでに「心の理論」が発達していることを示しています。 発達に問題がある子どもは就学前後でも正答できない子が多いとされ、「心の理論」の発達が定型発達に比べ遅れていると考えられます。
自分と他者の心について学ぶ機会が不足している
人の気持ちを理解して協調できるようになるためには、「心の理論」に加えてメンタライジング能力も必要です。
アタッチメント形成があり、メンタライジングも可能に
「心の理論」は「他者は自分と異なった視点をもち、その視点が理解できる能力」です。メンタライジングとは、「心の理論」をふまえ、自分の心の状態を基盤としたうえで、相手の視点に基づいた心理状態や思考を推測したり共感したりできる能力です。 メンタライジング能力も「心の理論」と同様に、基盤となるのはアタッチメント形成です。赤ちゃんはそれ以前に「自己」というものがありません。愛着対象者(親)との応答を通じて、自分のなかに「自己」を認識できるようになります。 自己とはいわば自分のなかに存在する「他者(もともとは親)」の視点です。自分がいまなにを感じ、考えているのか、他者視点で読みとれるようになる(客観視できる)と、自己を省みること(内省)ができるようになります。