「0-104」スクール☆ウォーズに迫る大敗の中、素人タックラーが覚醒 "普通の体育会"に求められている個のリーダーシップ
昭和の時代、「スクール☆ウォーズ」って青春ドラマがあった。 主役は、山下真司さんが演じる熱血教師。落ちこぼれの高校生たちとガチで向き合って、弱小ラグビー部を日本一に導く熱いストーリーだ。そのドラマの序盤、高校生たちが心を入れ替えるきっかけになる、ある大敗がある。 【写真】前半0-45、後半0-59……0-104が記された得点板 その試合のスコア、0-109。 さて、リアルな現代。9月22日、関東大学リーグ戦3部第2戦。東京都立大学は、昨年王者の新潟食料農業大学に、これ以上ない大敗を喫してしまった。 その試合のスコア、0-104。 ドラマに迫る勢いの、大敗だった。 相手ボールのキックオフ。最初に仕掛けた攻撃で仰向けに倒されて、逆襲から最初のトライを奪われた。ノーホイッスルのまま過ぎ去った、瞬く間の36秒。後は、だいたい、似たような展開が繰り返された。終わってみれば、16トライを失っていた。
シンプルな素人
時計の針が進むにつれて、覇気を失っていった都立大の選手たち。それでも、沈鬱(ちんうつ)なムードに流されず、異彩を放つ者はいた。 フランカー、山田晃大(2年、茗渓学園)。 そのプレースタイル、極めてシンプルだ。無理もない。ラグビーを始めて、まだ1年半も経っていない「素人」なのだから。 目の前のボールを追いかけて、ただひたすらに走り回る。ボールを持った相手を射程圏にとらえたら、ただひたすらにタックルを見舞う。数少ない攻撃のチャンスをとらえたら、ボールを手にした仲間に1秒でも素早く駆け寄ろうとする。自らボールを手にしたら、臆せず前へ突き進もうとする。 何をやっても、うまく転がらない時。得てして、そういうシンプルな行動と思考がきらりと光ることがある。小さくまとまろうとするのではなく、一点突破で突き抜けようとする、シンプルに尖(とが)った行動と思考が。 「僕、タックルとサポートしかできないんで。だからこそ、もっとタックルして、もっと仲間をサポートしなきゃならなかった」 試合後、そう、素人は悔しがった。 ラグビーを始めて1年半足らずの素人は、個対個なら、昨年王者と互角に戦っていた。 オーストリアのウィーンから、ドイツのデュッセルドルフへ。エンジニアの父の仕事の都合で、欧州を渡り歩きながら幼い頃を過ごした。自分というものを前面に出さなきゃ、「その他大勢」に埋もれてしまう空気感。だからなのか、感情表現は豊かだ。チームビルディングを兼ねた練習前のレクリエーション、いつだってムードメーカーになれる。練習中に時折、謎に大声でドイツ語を発して場をほぐす。 高校進学を機に日本に戻り、ラグビーで有名な茗渓学園へ。強いラグビー部に憧れもしたけれど、それ以上に、その時の興味関心はバスケットボールにあった。いまとなっては、その理由は定かではないけれど。で、バスケ部の門をたたいた。で、どこか窮屈さを感じる自分に気づいた。 え、バスケって、相手にぶつかっちゃいけないの? 欧州での日々、スポーツとは縁がなかった。だから、帰国したらスポーツをやってみたいと思った。なぜ、スポーツをやってみたくなったのか。思いきって、相手にぶつかってみたかったから。その爽快感と、怖さと隣り合わせの勇気を奮い立たせるヒリヒリ感に、浸ってみたかったから。 相手にぶつかっちゃいけないバスケを始めてみて、スポーツを通じて自分が探し求めていたものは何なのか、ようやく気づいた。 ラグビー部に入っていれば……。そんな葛藤を抱えつつ、物事を途中で投げ出すのも性に合わなかった。高校3年間、バスケ部を全うした。