筋トレのきっかけはナダル コロチキ西野が明かすバキバキになった1年間 「筋トレするより芸を磨けのようなアンチコメントもたくさんあった」
「100日後にバキバキになる西野」 『キングオブコント2015』優勝の実績を持つ人気お笑いコンビ、コロコロチキチキペッパーズの西野創人さんが、自身のSNSでそう宣言したのは2023年9月のこと。以来、『GYM FIT』のパーソナルトレーナーと二人三脚で肉体改造に挑み、目標達成。その後もトレーニングを継続し、10カ月で体重82㎏→62㎏、体脂肪率23%→7%とさらに肉体を進化させ大会初挑戦も果たした。そんな西野さんにトレーニングを始めた本当の理由や肉体の進化の源について、そしてトレーニングで得たものについて話を聞いたIRONMAN2024年11月号(ゴールドジム無料体験チケット付き)からインタビュー記事を掲載する。 【写真】トレーナーもムキムキ!西野さんとのマスキュラーポーズ
――今日はよろしくお願い致します! ふだんはこちらの『GYMFIT(ジムフィット)』をメインに、時間があれば別のジムにも行かれていると伺いました。 西野 そうなんです。昨日は久々に時間が取れたんで、2回行けましたね。前半はここで齋藤(晶太)トレーナーに見てもらい、後半が別のジムでの脚トレでした。 ――SNSでもトレーニングに打ち込む様子や、何よりこの1年での肉体の激変ぶりが大きな話題となっています。改めて、トレーニングを始めたきっかけは? 西野 実は去年、相方のナダルの映画出演が決まったことが、そもそもの始まりで。撮影にかなり時間を取られるとなると、コンビでの活動が自動的に減ってしまう。言うたら僕も家族がいるんで、ナダルも気をつかったのか電話がかかってきて「映画が決まったけど、ちょっと迷ってて」と。 ――相談の電話だったんですね。 西野 ナダルも一応、そういう人間の心があるんで(笑)。「西野の稼働がちょっと減るらしいけど、どうしよう」というから「いやいや、そんなん絶対やった方がええ、断る理由なんかないやろ」って。で、今度は僕が奥さんに相談したんですよ。奥さんからしたら生活面の不安もありますもんね。それで「メッチャ暇になるわ、ゴメン」といったら、「ええやん! アンタが一人で何かするチャンスやん! なんか始めや」って。 ――ポジティブな奥様! 西野 メチャメチャ引っ張ってくれるタイプなんです(笑)。それがきっかけで、飲み企画とか模索しながらyoutubeでやっているうちに、たまたま筋トレ系ユーチューバーでこのGYMFITのオーナーのアクトレ(ブログ)さんと出会って、筋トレ企画を提案されたんです。 ――筋トレは未経験ですよね? 西野 はい。でも「これや!」って。100日間で身体をバキバキにするなんて、絶対に時間がないとできない企画やし、アクトレさんからも「やるなら本気で食事制限にも取り組んで、本当にバキバキにしないと注目されないと思います」と言われましたし。その時点ですでに仕事も減ってきて追い詰められてもいたんで、「やります!」と。それが去年の8月でした。 ――ちなみに、子ども時代のスポーツ歴などは? 西野 小中高とずっと野球をやっていたんですけど、考えたらその経験も今のトレーニングに生きているかもしれません。練習はメッチャしんどかったけど、潰れずに頑張れる感覚は自分の中であったんですよ。というのも、学生時代ってウチ凄い貧乏やったんですね。だけど全然暗い家庭じゃなかったんです。自分の気持ち次第で何ごとも全然ポジティブに持っていけるっていう気持ちのあり方は、幼少期からちょっとずつ身についてたかもしれないですね。 ――齋藤トレーナーも「西野さんの急激な成長の要因は、やっぱりメンタル」と語っていました。その齋藤トレーナーによると、最初の1カ月はフォームの習得を徹底的に行ったそうですね。 西野 もう、最初は正直しんどいし、つまらないし、追い込むけど効いてるのか全然わからん、みたいな。それが1カ月、2カ月続いたんですけど、でも3カ月目くらいからかな、コツを掴んでくるというか、言うたらトレーナーと呼吸が合ってくるのが分かってきたんですよね。 ――トレーナーと呼吸が合う? 西野 はい。パーソナルトレーニングってメリットがいっぱいあると思うんですけど、僕が一番感じたのがそこなんです。呼吸が合ってくると、この種目で僕が一番どこに効くか、その角度や回数を全部トレーナーが把握するようになって、そうすると僕も3カ月目くらいから「なるほど、こうやって効かすのか!」と掴めてくる。と同時に、いい意味で筋肉痛がひどくなって、ますます効いていると実感できる。この循環が生まれたくらいから、身体もだいぶ変わってきましたね。 ――トレーナーとの呼吸というのは、コンビで活動している西野さんらしい視点かもしれません。 西野 ああ、たしかに共通する部分はありますね。漫才でも呼吸が合い始めると、相手の嘘が分かってくるんです。お互い嘘がつけない状況だから全力でやるしかなくなって、うわべだけの呼吸合わせじゃなくなってくる。パーソナルトレーニングも同じで、「自分が今サボったら、絶対に分かるんやろうな。これは全力でやらなアカンな」って。関係性が深くなってくればくるほど、嘘をつきたくないなってなりますよね。 ――最初の1カ月間、身体の変化を実感できなかった時期に挫折しそうになったことは? 西野 もちろんありましたね。始まる前は、身体の変化ってグラデーションみたいに徐々に変わっていくんだろうなと思っていて。でも実際は、突如化ける日があるんです。それがあるって気づいた時に「筋トレ、やめられへん」て思いました。それが開始2カ月ぐらいですかね。その前までは、身体の変化が感じられずにモヤモヤしてましたけど、そこでもやっぱり信じてました、トレーナーの「身体は変わります」っていう言葉を。まあ、実際は「ホンマに?」と半信半疑ではあったけど(笑)、疑いながらも「1回信じてやってみよう」って。そうしたらマジで変わってきたぞっていう。 ――実は、最初は齋藤トレーナーに「あまり筋肉をつけたくない」とリクエストしていたとか。 西野 そうなんです。最初は細マッチョというか、腹筋割りたいぐらいのイメージで。でも、それが大会の動画とかを見させてもらうようになった頃から、だんだん変わってきて。 ――あんな身体になりたいと? 西野 見た目というより、まず飯を食うって人間の一番の楽しみじゃないですか。その目先の欲望を我慢し続けてステージに挑んで、全てが終わって欲望を解放した瞬間に涙を流しながら食べる。その姿を見て、「これは人間の原点やな」ってメッチャ感動したんです。こんないろんな選択肢がある時代に、一番シンプルな「身体を変化させる」というところに、こんな感動があったんかと。そこからさらに色々動画を見るようになって、僕自身も大会に挑戦してみたいと思うようになっていきました。 ――トレーニングや大会出場を仕事に繋げたいという気持ちも? 西野 実は「西野と言えば〇〇」って何だろうと、ずっと考えてはいたんです。相方はあの通りキャラが濃いけど、「コロチキ西野」って検索すると「キングオブコント優勝」って出てくる。「いやいや、9年前のことが一番上に出てくるって絶対アカン。更新しないと、自分を」って。筋トレをやり出したのは、ちょうどそれで悩んでいた時期でもあったんです。 ――筋トレの企画を聞いて「これや!」と思った裏には、そうした思いもあったんですね。 西野 で、筋トレをやり出して、SNSにアップすると反応もすごくて。「よくこんなしんどいことできますね」とか、中には「そんなことより芸を磨け」みたいなアンチコメントもたくさんありましたけど、でも筋トレは自分にとって苦じゃないし、楽しいし、もしかしてこれを西野のイメージにできるかなって。ただ、そのためにはやっぱり周りを納得させなアカンと思ったんで、とにかく「振り切ろう」と決めましたね。中途半端が一番良くないし、周りも自分もつまらない。命がけぐらいの気持ちで頑張ってバキバキにして結果を出す。そうしたら、みんながさらに興味を持ってくれるやろうと。 ――とはいえ、人気芸人であり芸能の仕事は不規則でもあり、トレーニングの時間を捻出するのは本当に大変だったと思います。 西野 正直 自宅近くの24時間ジムに通えばトレーニング時間はある程度確保できますよね。でも、僕は劇場の舞台に立つ合い間のちょっとした時間に、GYMFITに来ていました。理由は、やっぱり1回でいかに追い込めるかというトレーニングへの本気度。僕の場合、平均でいうと週2、3回ぐらいしか来れていないんですが、それでも筋肥大ができたし絞れたのは1回で追い込みをかけたから。当日はもちろん、前日から食事も整えて、準備して臨みますし。 ――週2、3回では少なすぎるという声もあったのでは? 西野 ありましたね。でも、そういう声があったからこそ1回、1回を頑張れたかもしれないですね。「俺は週5、6回くらいのボリュームを週2、3回で出そう」と。劇場では1日に何回かステージに立つんですけど、1ステージ目が終わった直後にここに来て追い込んで、急いで劇場に戻ると、2ステージ目のツッコミがメチャずれるとか。いや、これは全然アカンことやけど、大会前はそれくらいの勢いで追い込んでましたね。 ――先ほどトレーニングを拝見しましたが、最後までフォームが崩れなかったのがとても印象的でした。限られた時間で効果を出すために、正しいフォームというのもかなり意識されているのでは。 西野 効果を出すこともそうですし、あとは全ての可能性をなくす一番の原因が怪我だと思うんで。僕、高校の野球部時代に腰を大怪我したことがあって。それは今でも人生の中で3本の指に入るくらいつらい経験やったんです。何もできないことほどつらいことってないですからね。トレーニングでもフォームを崩しながら無理やり挙げたりすることが怪我に直結してしまうんで、そこはメチャクチャ気をつけてます。ベンチプレスを1回挙げるのも「挙がるかな」じゃダメで「挙げる!」。中途半端な時が一番、怪我をするので、とにかくきれいなフォームでやり切るとういことだけは決めてます。 ――1年間トレーニングに取り組んでみて、肉体の変化以外でプラスになったことはありますか。 西野 筋トレって「今、ここでデザートを食べたらアカン」とか、自分との約束を守ることの連続なんですよね。その自分との約束を果たせば果たすほど、自信になるんです。以前はTV番組とかで、「今ここで俺が何か言ってウケなかったら…」みたいな気持ちがよぎったりしたんですけど、そういう「俺なんて」みたいなのが全くなくなって。ひるまずに胸を張って生きられるような気がしているのは、肉体の変化じゃなくて自分への信頼感からだと思います。 ――今年7月にはボディコンテストにも初挑戦しました。 西野 出させてもらって思ったのは、高校野球にちょっと似ているなって。努力し続けてきた者同士がその日に全てを懸けて戦って、結果が出たあとは勝ち負け関係なく握手して。これぞ青春というか、大人なってもこんなに泣けんねやって。あと、大会の4日後に僕、フリマをやったんですね。そうしたらムキムキの人が僕のところにやってきて「自分は西野さんの隣りでポージングしていた者です」って。大会に出場する人はそれだけで努力ができる人なんで、気持ちのいい人が多いです、マジで。 ――元の体型、元の生活に戻るということはなさそうですか。 西野 怪我とか余程のことがない限りは。だって、気づくことが多すぎるんです。俺ってこんなに食べてたんやとか、こんなに朝遅くまで寝てたんやとか。ウォーキングにしても、「デキる経営者は毎朝ウォーキング? 何やねん!」て思ってたけど、いざ自分がやってみたらちゃんと気持ちいいし、ちゃんと生活リズムが変わってくる。周りでケチをつける人は、やってないだけだし、僕自身やる前からいろいろ決めつけすぎてたなって。「俺はバキバキとは無縁」「筋トレ、朝活なんて無理」。でも、やってみたらこんなにハマることもあるし、新しい世界も開けてくる。だから、何ごともやってみてから言わなアカンなと思いましたし、そういうことにこの歳で気づかせてくれた筋トレにはマジで感謝ですね。
取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史