「1978年の音楽」から今、何を再発見できる? ホセ・ジェイムズが語る歴史を学ぶ意義
歴史を知ることは、自分と関わるもう一つの方法
ーあと、今回はエレクトリックギターが入っている曲が何曲かありますね。 ホセ:僕のバンドのギタリスト、マーカス・マチャドはすごくいいよね。アイズレー・ブラザーズのようなセクシーでクールな演奏をするんだ。彼のサウンドはジミ・ヘンドリックス、プリンス、カルロス・サンタナのようにも聴こえる。今挙げたアーティストもまた、『1978』のリファレンスだね。バロジが参加した「Dark Side of The Sun」は、ジャジーでヒップホップなサウンドから始まって、バロジのヴァースで、スタジアムを思い起こすような熱狂的なエネルギーに変化する。僕がバロジに表現してほしかったのはそれだった。 ーあなたはソウルやR&B、ファンクのサウンドにエレキギターを入れることに以前から積極的に取り組んできたアーティストでもありますが。アフリカンアメリカンの音楽とエレキギターの関係についてはどういうふうに考えていますか? ホセ:エレクトリックギターの歴史って、1940年代のチャーリー・クリスチャンに繋がるんだ。エレクトリックギターを遡るとジャズがあるということは忘れられがちだけどね。あと、僕はサンタナの影響も大きく受けてるし、EW&Fのようなビッググループにもエレクトリックギターは1~2本入っていることもインスピレーションになった。ボブ・マーリーにおけるギターもそう。エレキギター、フェンダー・ローズ、エレクトリックベースは似たようなフリーケンシーを持っているから、それらがうまくフィットしてくれて、70年代を思い起こすようなサウンドを作ることができたと思う。 ーたしかに。 ホセ:そうだ、一つ言い忘れてた。ルーベン・ブラデスが1978年に発表したアルバム(ウイリー・コローンとの共作『Siembra』、サルサ史上最も売れたとも言われる作品、)もまた、僕にとって大きなリファレンスだった。ルーベン・ブラデスとエクトル・ラボーはなんでもやっていたんだ。どこにでも訪れてさ……すごい野心だよ。彼らの音楽にはラテンパーカッションがたくさん入っていて、僕はあるとき1カ月くらい、ロサンゼルスをドライブするときに彼らのアルバムに浸っていた時期があった。僕はただ楽しむんじゃなく、その作品一つ一つをしっかり感じたいんだ。なにせ、ルーベン・ブラデスはパナマミュージックのキングだからね。 ー『1978』は自分の歴史を辿り直すことで、音楽の歴史や社会の歴史を辿り直したアルバムとも言えそうだなと、今日の話を聞きながら思いました。 ホセ:そうだね。 ー「1978年の名盤⚪️選」みたいな企画をローリングストーンを含むメディアがよく発表していますが、そういうランキングで選ばれる作品って、最近はやや改善傾向にあるとはいえ、アメリカとイギリスを中心とした英語圏の定番がほとんどだったりしますよね。でも、『1978』はもっとグローバルで幅広くて、今だからこその視点を備えている。世の中にはもっといろんな音楽があって、いろんな文脈で捉え直すことができると言わんばかりに。 ホセ:そう、『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックだけじゃなかった。あれも素晴らしいんだけどさ(笑)。 ーそこで聞きたいのは、歴史を学び直すことがどうして大切だと思いますか? ホセ:ワオ、壮大な質問だね(笑)。僕は記録しておくことが好きなんだ。今この時代は、特定のことだけがプロモートされて、そのときの社会的、文化的、金銭的価値の軸にのっとった「価値のあるもの」が残されている。本当に価値があるかどうかは別として。だから、僕は過去を振り返って、何がどうして起こったのかを知ることは大事だと思う。 例えば、『What’s Going On』がグラミー賞を受賞しなかったというショックな事実。最近の若い人たちは、当時だったら誰もが知っているR&Bレジェンドのルー・ロウルズを知らないということ。時間の経過とともに『What’s Going On』がベストアルバムとして評価されてきたこと……アーティストとして、一人の人間として、過去を振り返って、それが何を意味するか考えるのは重要なことだと思うんだ。僕自身や友人のアルバムでも、思うような称賛を得られなかったことがある。でも、過去の事例を見てみると、マーヴィン・ゲイも、1973年にはグラミー賞を受賞できず、1983年の「Sexual Healing」でようやく受賞した。まあ、これは一例であって、彼はそういうところで評価されずとも素晴らしいキャリアを築いたわけだけど。そういうストーリーって大事だと思うんだ。アルバムの価値を違う意味で文脈づけてくれる。そして、こういった情報には少し努力しないとアクセスできない。 ーたしかに。 ホセ:今はみんな「なぜマーヴィン・ゲイはすごいのか?」ってパッとググる程度で、結果で表示されるのは他人の意見ばかり。僕は、きちんと自分で勉強することが大事だと思っている。図書館に行って、本を読んだりね。すぐれたジャズ歴史家のアシュリー・カーンは、僕に70年代のローリングストーン誌を譲ってくれた。それがアルバムにも影響を与えたんだ。その時代のチャート、当時話題のトピックとか……70年代の記事を読んでいると、(今では考えられないような)誤解があることに気づく。批評家が「このアルバムはゴミ同然」って書いていたり……当時は(ビーチ・ボーイズの)『Pet Sounds』ってすごく嫌われてたみたいなんだよね! それでも、他人の意見に振り回されずに、世界に提示することは大事だと思う。歴史はその大切さを教えてくれる。 あと、歴史を知ることは、自分と関わるもう一つの方法とも言えるかもね。プリンスがローリング・ストーンズのオープニング・アクトを務めて、壮絶なブーイングを受けたことがある。僕からすればありえないけどさ(笑)。でも、彼はパフォーマンスをやめなかった。そんな経験に出会したら、大半のアーティストが「きっと自分なんて大したことないんだ」って思ってしまうだろうに。僕はそんな彼のストーリーをずっと心に留めているんだ。15年のキャリアを築けてきたことを光栄に思っているし、この先、もう15年は続けたい。そのためにはスタミナを維持して、将来をどう見据えるか考える必要がある。 そう! 歴史を勉強することは視野を広げてくれる。それがタフな質問に対する僕からのショートバージョンの回答だよ(笑)。 --- ホセ・ジェイムズ 『1978』 発売中
Mitsutaka Nagira