「1978年の音楽」から今、何を再発見できる? ホセ・ジェイムズが語る歴史を学ぶ意義
パーティーと政治、ディアスポラの文脈
ー『1979』には、他にもパーカッションが入っている曲が何曲かあります。これは『I Want You』からのインスピレーションだけじゃなくて、あなたの父がパナマ出身のミュージシャンであることとも関係があるんじゃないですか? ホセ:実を言うと、父はコンガ、テナーサックス、ティンバレス(主にラテン音楽で使用される打楽器)をやってたんだ。彼の影響は確実にあって、それはこのアルバムで表現したかった「blackness」、つまりディアスポラの文脈とも関係している。 ーやっぱり。 ホセ:カリビアン、アフリカン、ブラックアメリカン、ラテンアメリカン、ブラジリアン……みんな「ブラックか、そうではないのか?」という問いがある。けれども、ミュージシャンにとっては同じで、あるのはフォームの違いだと思う。キューバを表現するには、ペドリート・マルチネスのリズムが必要で、そこにはアフリカとアメリカとの関連性が含まれている。バロジはアントワープとコンゴに、シェニア・フランサはブラジルのバイーア州にルーツを持っている。そういった広がりをアルバムに含みたかったんだ。 アメリカ人のアーティストは、そういった点で傲慢なんだよね。アメリカが中心で、音楽の歴史はすべてアメリカにあると思っている。でも、70年代には世界中でいろんなことが起こっていた。アフリカではファンク、日本ではディスコ、ブラジルにも70年代の素晴らしいレコードがたくさん残っている。DJはそのことをよく知っているけど、そういったことを学校では学んだりしない。僕がジャズでできることといえば、そういう視点を教えること。歴史をアルバムに取り入れて、興味を持ってもらって、リスナーたち自身で解釈してもらう。それが一番の教育だと思う。「このサウンドはなんだ?……コンガか! 誰が演奏しているんだろう?……ペドリート。彼は何者だ?」。そういうふうに興味を持つ人は、自分自身で点をつないでいく。学校で与えられたことを学ぶよりよほどおもしろいと思うし、僕はそうやって学んできたんだ。 ーバロジやシェニア・フランサの名前が挙がりましたが、彼らが参加している『1978』の後半には、前半のソウルやディスコとは異なるサウンドが入っていました。その部分の「1978年らしさ」はどのように表現されているのでしょうか? ホセ:このアルバムは、「パーティー」と「政治」という2つのパートでできている。前半がパーティーで、後半は政治。70年代の精神を要約すると、Studio 54(70年代半ば~80年代にNYにあった伝説的なディスコ。セレブの社交場でもあった)に代表されるパーティーの時代で、人々は日々を謳歌していた。 その一方で、政治的にアクティブな時代でもあった。女性の解放運動や選挙(ウォーターゲート事件でのニクソンの辞職から大統領が二度変わり、1980年にレーガンが就任。10年で大統領が3度変わった)、ベトナム戦争の終戦……その文脈では、70年代のイメージはよくないことも多い。アフロ、ベルボトム、ディスコ……薄っぺらい時代だってイメージ。でも、80年代はもっと薄っぺらくて、ニヒリズムだって印象もある。でも、70年代のグラミー賞を観ると、すごくチャーミングなんだ。ポール・サイモンや他のアーティストたちがお互いの曲を歌ったり、当時流行った曲を合唱したりしている。今とはまったく違うエネルギーだと思う。 このアルバムでは、70年代の政治的な側面とグローバルな見方を反映している。僕は、ただ時代を振り返るんじゃなく、その頃の精神や、何が起こっていたかに注目したかった。今作では、ラテン・グラミー賞を受賞したシェニア・フランサと一緒に、トラディショナルでスピリチュアルな曲を制作をしたんだ。それはすごくいい経験だった。彼女は、僕と同じく過去と未来を生きているアーティストだから。バロジは、今では世界的な映画監督として知られているけど、彼のルーツはラップとストーリーテリングにある。 僕は自分のレーベル、Rainbow Blondeを通じて世界中のブラックの声を届けたいと思っている。例えば黒田卓也など、一緒に制作をしているインターナショナルなアーティストのことを(海外の)オーディエンスはあまり知らない。でも、ジャズの掘り下げ方はクレートディギングに限らないんだ。多数のレイヤーがあって、深掘りできる余地がいくらでもある、奥深いものだってことをもっと知ってもらいたい。 ーシェニア・フランサの名前が出ましたが、70年代半ば~後半といえば、ジョージ・デュークがブラジル人とコラボし始めたり、アジムスがアメリカで人気を獲得したり、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(以下、EW&F)がブラジルの曲をカバーしたりもしてましたよね。そういったコンテクストも今作には入っていますか? ホセ:まさに、そのとおり。 ーあなたはロンドンとのコネクションが強いので、ブラジル音楽を以前からやっていてもおかしくないのに、意外とやってなかったですよね。だから『1978』はすごく新鮮でした。好きなブラジル系の音楽はどういったものですか? ホセ:嫌いなブラジリアンミュージックに出会ったことがないかもしれない。ミルトン・ナシメントやアントニオ・カルロス・ジョビンといったクラシックなアーティストは言うまでもないし、僕はセウ・ジョルジと一緒にフランク・シナトラのトリビュートをやった。彼は素晴らしかったな。これからはシェニアを通じて、新世代のブラジリアンミュージックともつながれたらと思っている。ブラジルは今まさに変革の真っ只中で、世界中のファッションや音楽業界が再注目している。さまざまな影響の入り混じった豊かなカルチャーがあるし、なんといっても大きい国だ。