勤め先の閉店で45歳で無職に…リフォームジュエリーデザイナーが再就職の中で探した“答え”
時間を遡るなら、人から人に受け継がれる商品を題材にしよう
――今回、リフォームジュエリーをテーマにしたのはなぜですか? 寺地 最初はもう少し漠然と「会社の閉業や閉店」を考えていたんです。でも、せっかく時間を遡るなら、人から人に受け継がれるものを扱う会社にしたいと思いました。それで、誰かからもらった大切なものを、また次の世代へ渡すリフォームジュエリーを思いついたんです。 ――寺地さんはもともと石がお好きだとか。今日の衣装のネックレスも、物語に「お守り」として登場するラピスラズリのネックレスにそっくりですね。 寺地 このネックレスは版元の広報担当者が出版を記念して、そっくりなものを探してくれたんです。 石はダイヤとか価値が認められたもの以外にもいろんな種類があるので、面白くて。石って長く使うものですし、誰かの形見としていただいたり、いろんな物語がありますよね。そういう意味では小説の題材にしても、広がりが感じられます。
リフォームジュエリーの取材で印象的だった「お客さんからの手紙」
――今作のために改めて取材したことは何ですか? 寺地 大阪のリフォームジュエリー店に取材に伺いました。お店にはお客さんからのお礼のお手紙がいっぱい壁に貼ってあって、すごく参考になりましたね。例えば、ある左利きのお客さんは、ネックレスの留め具を逆に作ってもらったそう。「そんなところまで気にかけるんだ」とびっくりしました。 ――その人に合ったジュエリーを仕立てるんですね。小説には、リフォームジュエリーに関わる職人たちも登場します。 寺地 職人の方々にもお話を聞かせていただいたんですけど、すごく興味深かったです。ジュエリーの世界は分業制なんですけど、私の中で衝撃だったのは、地金加工とは別に石留めの職人がいることです。石を留める技術ってすごく種類があるらしくて、石の形に合わせて爪を調整するらしいんです。とても興味深かったです。
最初は4人それぞれの視点で書き上げた
――今作で筆が乗ったり、あるいは何度も書き直したりしたシーンはありますか? 寺地 書き直すというお話で言うと、最初は4人それぞれの視点で30年間を振り返ろうと思っていたんです。でも書いてみるといまいちだったので、1人の視点に書き直しました。 かなりの原稿を変更したのですが、エピソード自体はそのままなので作業は大変ではなかったです。「本人からは見えていたことが、この人には見えていない」と視点を考え直す作業が必要なくらいで。 ――読者に読んでほしいシーンはどこですか? 寺地 結末に近いところで、エレベーターに乗るシーンです。最後の最後に加筆した場面なので、そこが褒められたらうれしいですね。