「ひとりでも産みます」ーー子宮頸がんを経験した女性が授かった命と育てる決意 #ydocs
未婚で産むときの選択肢
産むと決め、まず問題となったのは出産前後の費用の確保だった。 サキさんは自営業者。休めば、その間の収入はない。お金のことを考えると、できるだけ働きたい。 調べてみると、公務員が産休を取得できる期間は、出産予定日の8週間前からだということがわかった。「少なくとも妊娠8カ月までは働けるんだ」。そう考えた。 とはいえ妊娠初期は、ひどいつわりに悩まされ、キャバクラへの出勤はもちろん、日中のカフェの仕事もできない日が増えた。 区役所に相談に訪れると、ケースワーカーから生活保護の受給を提案された。しかし、「稼ぐ術は身についている」という自負もあったし、ただただ自宅で安静にして過ごすことにストレスも感じると思った。何よりも、社会との関わりがなくなるのではないか、自信を失ってしまうことが先々の育児にも影響するのではないか、という恐怖感があった。
将来の為のネオン街
赤字補填のために始めた歌舞伎町のキャバクラでの稼ぎは悪くなかった。しかし、妊娠後は、出勤するたびに男性スタッフから「まだ堕ろしていないのか」という心ない言葉を浴びせられ、苦しかった。 「歌舞伎町より稼げて、お酒を飲まなくても働けそうな場所はないだろうか」 そう考えたサキさんが向かったのは銀座だった。 強力な伝手もあって、有名クラブの面接に合格。すると「独り身で出産」の先輩でもあるママに気に入られ、まだ目立たないお腹をドレスで包んで働き出した。 お酒を飲まなくても許される環境で、銀座で働けたのは2カ月ほどだったが、すぐに指名客も付き、結果的に生活保護を受けるより稼ぐことができ、産後のための貯金もできた。 しかし出産直前、新たな問題がサキさんの前に立ちはだかる。 予定日の1カ月前に、当時、暮らしていた1Kのアパートから退去するように言われたのだ。不動産業者に聞くと、近隣住民との騒音トラブルを避けるため、「赤ちゃんお断り」とする物件は珍しくないというが、まさか自分がそんな目に遭うとは思わなかった。 幸いカフェに近い場所で「赤ちゃんOK」のアパートを見つけることができ、そこに移り住んだが、七畳一間の部屋は、それまでより随分と狭く感じた。