【西武投手王国への道】若手先発に見えた明るい材料 炭谷に学ぶ3年目捕手・古賀「リードについて話していると、銀さんはそこまで考えているのかと感じます」
【埼玉西武ライオンズ 投手王国への道】 パ・リーグを戦う西武の最大のストロングポイントである投手陣。近年、急速に力をつけてきたが、その裏には一体、何が隠されているのか。ライオンズ投手王国への道を追う──。 取材・文=中島大輔 写真=桜井ひとし 【選手データ】古賀悠斗 プロフィール・通算成績・試合速報
炭谷の好リードで実績少ない投手が好投
後半戦を前に5位・オリックスと13.5ゲーム差、クライマックスシリーズ出場圏内の3位・日本ハムとは18ゲーム差。パ・リーグ最下位の西武は苦しい状況に置かれる中、7月15日から本拠地ベルーナドームにオリックスを迎えた3連戦では投手陣に明るい材料が見えた。 今季支配下登録された高卒3年目左腕の菅井信也が初戦で7回無失点でプロ初勝利を飾ると、2戦目は同6年目の渡邉勇太朗が7回1失点。3戦目では大卒2年目の青山美夏人がプロ初完封を記録したのだ。 実績の少ない3投手の力を引き出したのが2人の捕手、炭谷銀仁朗と古賀悠斗だった。 「試合前に菅井に言ったのは一つ。『よほどのことは全部指示するから全部ストライクを投げろ』。菅井がゾーンの中で勝負してくれました」 7月15日の試合後にそう振り返ったのが炭谷だ。渡辺久信GM兼監督代行も絶賛している。 「いつもは配球で真っすぐの割合が70%ある中でどう変化球を交えていくか。銀仁朗と菅井は親子くらいの年の差があるけど、絶妙な感覚でやってくれたと思います」 この日はストレートを62.6%と軸にしながら、スライダーを20.9%、チェンジアップを13.2%とうまく織り交ぜた。特に光ったのが1対0で迎えた7回二死二、三塁で代打・杉本裕太郎を迎えた場面だ。 「銀仁朗さんに『一塁が空いているからぶつけてもいいくらいの気持ちで投げてこい』と言ってもらい、あの結果につながったと思います」 菅井がそう振り返ったように炭谷の配球が見事だった。初球は内角高めに141キロ速球が外れると、低めにチェンジアップを2球続けていずれも空振り。4球目は内角高めの速球がやや甘くなったものの、杉本のバットに空を切らせた。 「三振を取るなら最後はあそこだと決めていました。その道中をどうするかという選択での配球です」 炭谷はそう話したが、7回の杉本への1打席だけでなく試合全体の布石もあった。オリックスは5人の右打者を先発させた中、内角の速球はそれほど多く使っていなかった。そしてピンチで勝負球として要求したのだ。投げ切った菅井が振り返る。 「一死二、三塁にされて1点は覚悟した部分もありましたけど、6回裏に取ってもらった1点は本当にでかいので、絶対に守り切ろうという気持ちで投げました」 炭谷が菅井の持ち球と闘志をうまく引き出し、当時15歳差のバッテリーは大きな1勝をもたらせた。 翌日は再び炭谷が先発マスクをかぶり、渡邉が7回を9奪三振。勝敗はつかずにチームは敗れたが、1失点で先発投手の仕事は果たした。 「三振の結果球は逆球だったり抜け気味になったり、そんなにいいボールがなかったけど、追い込むまでの過程で銀さんがうまく組み立ててくれました」 大器と期待されながら殻を破れなかった渡邉は今季、強い速球を軸に変化球でうまくカウントを稼いで安定した投球を続けている。この日も成長の跡が見え、炭谷はさらなる要求を出した。 「今度求めるのは打順との兼ね合いでギアを入れたり、抜いたりをできること。ただ今年は打線が低調で接戦が多いから少し難しいかもしれないですけど。ピッチャーにも負担になっているので。逆に言うと、そこを乗り切ればいい経験ができます」