蘇州スクールバス殺傷事件に対する中国当局や国民の反応を考察する
■SNS上にあふれる反日感情 一方で、蘇州の事件では犯行直後、ソーシャルメディアで凶行に及んだ容疑者を賞賛する声があふれた。反日、それに偏った愛国心の名を借りて犯行を美化する内容だ。身を挺して亡くなった中国人女性については「日本のスパイだった」とか、負傷した日本人母子を指して「ざまあみろ」といった書き込みもあった。 こんな心ない人間は、残念だが、どこにもいる。中国でもごく一部だと信じる。これら書き込みは当局によって削除され、特に過激な内容についてはアカウントが閉鎖された。 今回の事件では、スクールバスの案内係、胡友平さんが犯人に刃物で刺され、亡くなった。報道によると、「もしあの時、犯人を止められなかったら、もっと多くの被害者が出ていた」と目撃者が話しているという。 ■尊重したい“純粋な思い” 中国のSNS上では、事件当時の映像が拡散されている。バスの乗降口の前の路上で、倒れ込む胡友平さん。それを懸命に介抱する人たちの映像だ。胡友平さんの死を悼み、その行為を賞賛する動きが中国と日本で広がった。地元・蘇州の市役所は7月2日、「正しい行動を勇敢に実行した行為」と認定し、胡さんに「模範的行動をした市民」として称号を授与した。 「中国人の誇り」「中華民族の誇り」といえば、習近平主席が進めてきた路線に沿っている。中国国内・国外の中国人社会からは、胡さんを「市民の模範」、または「英雄」にするような当局に、政治利用ではないかと疑問を投げかける声も出ている。ごく普通の市民を突然、ヒーロー、ヒロインにまつり上げて国民の模範にして、中国人の誇りをかき立てるようなやり方がふさわしいのか。亡くなった彼女自身がそれを喜んでいるのか――という問いかけのような気がする。 想像だが、亡くなったバスの案内係、胡友平さんは、毎日、顔を合わせる日本人の児童・生徒たちを愛していたはずだ。子供たちもバスを乗り降りする時に、片言の中国語で「ニイハオ」「謝謝」「再見」の言葉をかけ、小さな日中交流を繰り返していたのだろう。だから胡さんは危険を顧みず、子供たちを守ろうとしたはず。その純粋な思いこそ、我々は尊重したい。
■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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