浅井健一が求め続ける“化学反応”の正体 ソロ最新作に込めた今のモードを語る
音楽の新しさとはなんだろう?と考える。ジャンルの交配や新しいソフトウェアを使うことも遠因にはなるだろうが、一人のブッ飛んだアーティストの脳内に敵うものはないのかもしれない。と言うのも、浅井健一の2年半ぶりのソロアルバム『OVER HEAD POP』の音像や作品性がとてもフレッシュで、いまだに初期衝動に満ち溢れていたからなのだ。前作まではコロナ禍という時代性も影響していたのか、閉塞する世界の中でも光を見出すような内面的な楽曲が散見されたが、今作はもっとタフでポップだ。もちろん、この間のAJICOの活動から続くサウンドエンジニアリングの側面だったり、同世代のメンバーからなるSHERBETSとは違うベクトルに向かった結果だったりする。 【全ての写真】サブスク解禁でBLANKEY JET CITY人気も再燃しているベンジーこと、浅井健一が現在開催している全国ツアーのライブ写真 インタビューは本作の8曲目「POPCORN」の歌詞に登場する、浅井がInstagramに投稿したあのアイスクリーム屋のバニラアイスを味わいながらスタートした。ちなみに編集長が取材前に買ってきた差し入れである。
情熱と面倒くささはどっちが勝つか
──浅井さんはこのアイスクリーム屋さん行きました? うん。行った。1週間ぐらい前に行った。 ──え、そうなんですか? 店員さんがすごく感謝してたそうです。ファンの方もたくさん来てくださってるんで、よろしくお伝えくださいと。 俺行ったけど何も言われんかったよ(笑)。 ──直接は言いにくいじゃないですか? いや、気が付かんかったと思う。 ──(笑)。せっかくなのでアイスを食べながら始めましょうか。前作の『CaramelGuerrilla』から2年半ぶりのアルバムで、前作は内面的な印象もあったんですけど、今回は全然違う着想から始まったんですか? そうだね。なんかもう……ポップな明るくてコミカルな自分を出そうと思ったな。そうやって考えたらなんかいろんなアイディアが出てきて良かったですね。 ──自分のポップさを出したいと? いや、SHERBETSでここ2~3年やってて、SHERBETSはやっぱあのメンバーでやると自然にアルバムができるんだけど、ソロになると悩むまでは行かないんだけど、結構苦労するんだね。で、SHERBETSと全く違う世界の自分、アルバム全体も全部明るくポップな楽しい感じで作ろうっていう風に切り替えたらことが進みましたね。まあ全曲ではないんだけど。 ──アルバムの中でもどの曲が早めにできたとかありますか? うん。「Fantasy」ができて、「ああ、こういう感じで作ろうかな。全部こういう感じにしようかな」と思ったかな。 ──“ファンタジー”には幸せや楽しいイメージがあるけど、この曲では皮肉がこもってる感じがあります。 ああ、そうそう。皮肉がこもってる。不可思議なことが世の中で行われとるから理解できない、だからもうこれはもうファンタジーって言うしかないよねっていう。俺んたちはファンタジーな世界で生きてんだみたいなさ、そういう開き直りというか嫌味というか、そういう感じで歌ってるんだけどね。わかるよね? ──確かに。よっぽど自分の方が常識あるなと思うようなおかしなことがいっぱいあります。 うん。だからみんな結局金儲けなんだわ。真面目にやっとってお金持ちになってるんだったらいいけどね。なんかずるいことやってそういう風になってるのは許せんよね。 ──曲調自体も久しぶりにスリーピースのロックンロールがきたなっていう。 そうだね。うん。そういう方向で行こうと思ったよ。 ──いろんなワードがフックになっていて、“ミセス・ロビンソン”は映画『卒業』の登場人物であり、サイモン&ガーファンクルの曲でもあり。浅井さんの中でこの人のイメージがあるんですか? まあちょっと大人びた人だよね、セクシーなね。 ──この曲もミュージックビデオもすごいシュールじゃないですか。 あー、ミュージックビデオはまだよく見られていないから感じれていない。 ──(笑)。あれは監督に任せたんですか? そうだね。頑張ってやってもらったで、大人気になってもらえると嬉しいですね。 ──この曲の世界を監督がとらえて作っていらっしゃると思うので、見てて新鮮でしたけどね。 だったらいいと思う。 ──浅井さんの感想としてはどうなんですか。 や、最大限一生懸命作ったし。曲をいい具合に表せていると思うので、嬉しいです。 ──いつか浅井さんがアニメーションとかも作り始める予感もあります。 そんなことまで手出さないと思うよ、大変だもん。 ──行ききるっていうのを自分で作ってしまいそうな感じがなきにしもあらず。 そんな根性あるかな?(笑)“いききる”ってどういう字?生きるって事? ──突き抜けるの方の。 ああ。宮崎駿さんももう引退するとか言ってたけどまた復活したりしとるもんね。あの人のドキュメンタリーとか見たけど、「こんなめんどくさいことなんで俺はやってるんだ」みたいな感じでやっとったもんね。 ──情熱もあるけど実際やると面倒くさいってことも往々にしてありますもんね。 うん。だからどっちが勝つかだわ。 ──“ファンタジー”というワードはアルバムのほかの曲にも出てきます。「猿がリンゴ投げた」にも。 まあたまたま。「猿がリンゴ投げた」はだいぶ前に出てたんだわ。で、そういう歌詞だったんだよね。で、たまたま隣同士になっちゃったっていう(笑)、あんまり深く考えなくていいと思う。