中国で相次いだ無差別襲撃事件 政府が監視を強める「数字」と、漂う“閉塞感”
■無言の抗議から2年…「表現方法変わっただけ」息苦しい若者
2022年に中国全土で行われた無言の抗議、「白紙運動」。若者を中心に、ゼロコロナ政策をめぐる厳しい行動制限への抗議活動が行われたが、後に当局の網にかかった参加者が続々と拘束された。 「相次ぐ襲撃事件は自由を抑圧されてきた国民の不満の表れの一つ」こう話すのは、北京で行われた白紙運動に参加していた20代の女性。「経済の低迷も一因ではあるものの、自由にモノが言えない空気感がますます強まり、就職難や生活への不安を口にすることすら許されない結果だ。犠牲になった命を思うといたたまれない気持ちになる」と胸を痛める。 また、白紙運動に参加していた別の男性は「天安門事件以来、最大ともいえる政府への抗議活動だった」と振り返る。そのうえで、相次ぐ事件について「国民が公平に政治に参加するすべが、中国では世界と比べて圧倒的に欠けている。怒りや不安が蓄積され、化膿したことが引き金となった結果なのかもしれない。ストレスが総合的に爆発したんだ」と肩を落とした。周囲からも“もう耐えられない”という声を耳にする機会が増えたという。 最後に男性は「モノを言うことをあきらめた中国社会全体がつくり出してしまった結果なのかもしれない」と声を潜めた。
■国民に“点数制度”も 心療内科に通院する若者増加
取材相手の若者がふと放った言葉が引っかかった。「国民には『点数制度』がひも付いているから。学生時代にボランティアに参加すればポイントが稼げる。将来のために必死だったわ…」 この女性は教育学を専攻していた。清掃プログラムやボランティア活動に参加することで、“ポイント数”を獲得していたという。国民一人一人を評価し、点数をつけて判断するこの制度は、例えば学校や地元でボランティアや献血活動を行えば、加点対象に。一方で、犯罪以外にも、スピード超過などの交通違反をすると減点されるという始末。点数が低くなるにつれ、航空機や鉄道などの乗車も断られるなど生活にも影響を及ぼすというのだ。 この“ポイント数”は大学の成績や学部の単位取得に影響するというよりは、一生涯ついて回ることになる、人々の人生を大きく左右しかねない制度だ。 ただ、若者たちが落ち込む原因は社会の閉塞感だけではないのかもしれない。若者の失業率が高止まりし、名門大学を出ても職にありつけない、過酷な競争社会への疲労感の表れか。先日、北京市内の心療内科を訪れると、平日にもかかわらず長蛇の列ができていた。特に若者が多い印象で、人気の医師の予約をめぐって、し烈な戦いが繰り広げられていたほどだ。中国メディアによると、鬱症状を患う患者のうち、24歳以下が65%を占めるという。弱音を吐くことを許さない社会の雰囲気が、若者を圧迫しているに違いない。