大阪駅前に誕生、安藤忠雄設計監修の文化装置〈VS.〉。こけら落としは真鍋大度の新作個展です。
大阪駅前のターミナルに直結する、貨物ヤード跡地での都市開発。9月6日に先行まちびらきが行われた〈グラングリーン大阪〉でひときわ注目を集めるのが〈VS.〉。天井高15mの展示スタジオを有する空間で、多様な文化を結びつけ発信し人々に刺激を与える文化装置は、アーティスト・真鍋大度による『Continuum Resonance 連続する共鳴』で幕を開けた。 【フォトギャラリーを見る】 〈グラングリーン大阪〉の敷地の約半分、45,000㎡を占めるのが豊かな緑を持つ都市公園〈うめきた公園〉。その一角に登場した〈VS.〉は、安藤忠雄設計監修(設計・監理:日建設計)によるガラスとコンクリートの2つのキューブからなる文化装置だ。2つの建物は地下で繋がり、3つのスタジオと〈V Space〉と名付けられたホワイエを有する。 こけら落としとなった真鍋大度の新作個展『Continuum Resonance 連続する共鳴』は、空間それぞれにインストールされた自律的な作品がインタラクティブなオーディオ・ビジュアル体験をもたらす。真鍋がシナン・ボソケイと共同開発した画期的な3D音響ソフトウェア「PolyNodes(ポリノーズ)」の可能性を追求し、立体的空間音響表現の新たな関係性を提示する最新作である。 「当初は過去20年にわたり発表した作品の包括的な展示を考えていました。ところが安藤建築のユニークな空間を見て考えたのは、空間自体を作品のモチーフに展覧会を構成すること」と振り返る。ル・コルビュジエの弟子だった現代作曲家ヤニス・クセナキスの70年代の著書『音楽と建築』に影響を受け、数学と音楽の関係性の探求を活動の原点とする真鍋。空間のポテンシャルと特性をデータとして取り込み、その空間内を動く鑑賞者の動的なデータをも活用し再解釈することから、本展覧会は生み出されているのだ。
形状の異なる4つの空間で展開してゆく本展。Work1《PolyNodes Installation Debug Views》では鑑賞者の位置と展示空間のデータを解析し、「PolyNodes」によるリアルタイムでの音響生成とアウトプットを行う。次の空間に現れるWork2《PolyNodes Visualization》でも同様に鑑賞者の姿を捉え、シンセサイザーやドラム音などを加えた音響をリアルタイム生成する。この2つの空間ではプロジェクション映像を見ることで、どうデータが収集されているかを理解し、コンピュータによるアルゴリズムで自動的に音を生成し変化させる「PolyNodes」の作用や機能が理解できる仕組みだ。 続いてホワイエで展開するWork3《PolyNodes Augmentation》では、三次元の立体図形として空中に浮かぶ「PolyNodes」を壁面へ投影させて可視化。鑑賞者と空間現実から解析された音響と共に、ディスプレイを通じてARとしての体験をもたらす。最後に現れるWork4《Synthesis of Body-Space-Music 身体・空間・音楽の融合》は、天井高15mの空間データとダンサーの身体運動データ、そして「PolyNodes」を素材として使用。この場でしか実現できない表現を追求し、没入感をもたらす。 「15mもの高さのある空間は反響もすごくて、音の環境としては難しいけれど、映像を投影したらおもしろいだろうなと。ホワイエもまた特徴のあるV字の柱があって、どう生かすかを考えて仮想光源に光をあてることに行き着いた」と真鍋。まさに〈VS.〉という存在が作りあげた作品である。