「技術者を採用できない。誰か手段を教えて」頭を抱える中小鉄道 トラブル続出の背景に深刻な人材難
青森県平川市に本社を置く弘南鉄道は県内で弘前市と黒石市を結ぶ弘南線と、弘前市と大鰐町を結ぶ大鰐線の2路線を運行する。100年近い歴史があるこの弘南鉄道が昨年9月25日の昼前、何の前触れもなく全線で運行を取りやめた。 【写真】JR幹部「空気を運んでいる」 100円稼ぐのに2万3千円の費用、ローカル線は存続?廃止?
きっかけは、約1カ月前に起きた脱線事故。レールの検査方法に誤りがあったことが判明したため、正しく検査し直したところ、脱線区間以外でも基準を超えてレールが摩耗していたことが分かったのだ。 地方の生活の足となる中小鉄道が苦境に立たされている。大量退職や、給与水準の高いJRなどに人材が流れて技術者が不足し、施設の保守管理もままならないためだ。トラブルは弘南鉄道だけではない。香川県の高松琴平電気鉄道(ことでん)でも、安全を揺るがす事態が相次いだ。国内の旅客鉄道事業者数の約8割を占める中小鉄道で今、何が起きているのか。(共同通信=小林知史、加志村拓、赤羽柚美) ▽突然の運休、全線運行再開は2カ月半後 昨秋にいきなり全線を運休した弘南鉄道は、バスによる代行輸送をしながら、順次運行を再開。最終的に全線が復旧したのは2カ月半後の12月8日だった。 国土交通省東北運輸局の調査で、同社の不適切なレール検査の実態が明らかになった。一部区間で摩耗測定器を使わず目視のみで実施したため、レールの交換基準に達していたにもかかわらず「適合」と誤った判定をするなどしていた。
運輸局は今年1月、改善を指示。その際に指摘したのは、弘南鉄道が陥った人材難のこんな実態だ。 「施設の保守管理をする係員の経験が浅く、現場責任者が不在となっていた。さらに本社に保線関係の専門的知見を持つ職員が在籍してなかったことから、保守管理体制が脆弱だった」 ▽改善指示したのに、またトラブル 香川県内に三つの路線を持つ「ことでん」のトラブルは、昨年4月、踏切の遮断機が下りないまま電車が通過したこと。四国運輸局は、重大な事故につながりかねないとして昨年6月に改善を指示。ところが、その後の昨年7月と8月にも同様の事案が発生した。 ことでんは2021年にも遮断機トラブルで改善指示を受けていた。四国運輸局は、同社が21年に作成した踏切点検マニュアルに掲げた一部の点検を実施していなかったことを確認。マニュアルに関する教育や訓練もマニュアル作成時の臨時教育1回のみしか実施されていなかった。