「技術者を採用できない。誰か手段を教えて」頭を抱える中小鉄道 トラブル続出の背景に深刻な人材難
問題の責任を取って昨年8月に辞任した真鍋康正社長は記者会見で謝罪した。「多大な不安、迷惑をおかけして申し訳ない。安全面の予防措置的な投資が欠けていた」 ▽出向者、外注頼みの現状 問題はことでんや弘南鉄道だけではない。全国の中小鉄道の路線維持や経営実体はどうなっているのか。2022年末から23年初めにかけ、1キロ当たりの1日平均乗客数(輸送密度)が2千人を下回る中小鉄道会社約50社を対象にアンケートを実施した。 その結果、中小鉄道会社の多くが人材確保に苦しみ、保線や施設など技術系の部門を中心にJRからの出向者や外注に頼っている現状が明らかになった。 中でも、弘南鉄道は十分な応募者がいないなど、人材の採用に「課題や不安がある」と回答。「人手不足や採用難の解決のため、どのような取り組みをしているか」との質問にはこんな回答が寄せられた。「手段が知りたいです」。有効な対策がなく苦心する様子がうかがえた。
弘南鉄道も「保線」「施設」「車両」を外注に頼っている。改善指示後に開いた記者会見でも同社幹部は直近の約10年間、退職した社員の補充が十分にできなかったと述べた。「人員不足は深刻だ。退職などで人の配置が変わることで教育が行き届いていなかった」 ▽人材確保へJRもてこ入れ 人材不足の問題は、中小鉄道に限った話ではない。JR各社も待遇改善による人材確保に努めている。JR東日本は、2023年春闘で要求を上回る6千円弱のベースアップを実施すると労働組合側に回答。JR西日本は昨年11月、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ業績が回復したとして、冬のボーナスとは別に20万円と月給の3割に当たる額の「一時金」を社員に支給すると発表した。社会人採用の初任給も大幅に引き上げ、てこ入れを図る。それでも施設系の社員は「高速道路会社や自治体との人材獲得競争がある」(JR西関係者)。 こうした状況下では、元々の賃金水準が低い中小鉄道、仮に賃金を多少引き上げたとしても人材がうまく集まらない。かといって運賃の値上げも容易ではない。沿線住民の利便性の低下につながるためだ。財政支援をする地元自治体には、さらなる費用拠出への警戒感がある。実際、弘南鉄道の地元の弘前市議会では、「いつまで支援を続けるのか」と長期の運休をきっかけに市側を問い詰める議員もいた。