大田ステファニー歓人「ゴミの収集は公共性マックスみたいな」ゴミ清掃員を兼業する三島由紀夫賞作家
「いやいや、俺そんないいやつじゃないよ」と言いたくなる
――すばる文学賞を受賞してから変化したことはありますか? 大田さん: 自分の表現で傷つく人がいるかもしれないと考えるようになったこと。今までは自分のためだけに書いてたけど、本を出してから傷つけたくない人も傷つけるかもしれないって思うようになったし、これまでの自分の人に対する振る舞いを振り返って、いろんな人を傷つけたなって病むことがあるっす。 あと、受賞後にインタビューが増えたことで、自分が人にどう見られているかが気になるようになりました。取材って基本的に聞かれたことに答えるじゃないですか。こちらが好き勝手に話してるわけじゃない。まじめな質問がきて、それに答えたら“いい人”っぽい感じに見えちゃうわけで。それに対して「さすがです」みたいなコメントが来ると、「いやいや、俺そんなやつじゃないよ! よくない自分を出してないだけ」って思ったりします。自分の発信したことが「そのまま自分」として受け取られるから、自分の中のイメージと社会で受け取られている自分のイメージに乖離があると苦しいっす。 ポジティブな変化としては、エッセイの依頼がくるようになって、ガザの惨状を訴えたり、日常のささいなことも面白く書けそうだなって思う瞬間が増えたことですね。妻のかおりんの話を聞いてても、友達と遊んでても、小説読んでてもいつもどんなことが書けるか考えています。 ――現在は、二作目執筆中と伺いました。次回作はどんな作品なんでしょうか? 大田さん 今は、妻が妊娠した男の話を書いてます。この話を書こうと思ったのは、実際に自分の妻が妊娠したというのもあるんですけど、子どもを授かってからハマスとイスラエルの戦争に、より目が向くようになっていろんな憤りや悲しみが自分の中に渦巻いたからです。 虐殺を止められないこの世界へ、今まさに子どもを放り込もうとしている夫婦の話を描こうと思いました。逆境の妊婦が出てくる話なんで、書いてて結構つらいんですけどね(苦笑)。そのダルさに向き合うのが小説家です! 【大田ステファニー歓人インタビュー後編】「人に対して刃を刺すと、自分にも刺さるっす」へ続く 作家 大田ステファニー歓人 1995年東京都生まれ、東京都在住の作家。『みどりいせき』で2023年第47回すばる文学賞、2024年5月には第37回三島由紀夫賞を受賞。最近では、SNSなどでパレスチナ問題についても積極的に発信している。 『みどりいせき』大田ステファニー歓人(集英社) 学校になじめず不登校ぎみの高校2年生の「僕」は小学校時代にバッテリーを組んでいたピッチャーの 春と再会し、知らないうちに怪しいビジネスの手伝いをすることに。隠語と煙で充満する隠れ家でグミ氏やラメちたちとつるみ、不健全で抗いがたい、鮮烈な青春にまみれていく――。 撮影/Saeka Shimada 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/種谷美波(yoi)