「捜査を回避するためには選挙するしかない」 事件化前に自民幹部が進言した「幻の衆院解散」とは【裏金政治の舞台裏①】
岸田文雄首相は6月中の衆院解散を見送ることになった。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件による逆風がやむ気配はなく「衆院選に突入すれば惨敗していたところだった」と与党内には奇妙な安堵が広がる。 【写真】なぜ岸田首相はサプライズを好むのか 言動が予測困難過ぎて永田町騒然「ひょっとして衆院解散も」
解散権という「伝家の宝刀」をいつ行使するかは時の総理大臣の大きな悩みの種だ。岸田首相も例外でない。昨年も何度か解散を断念していた。その過程で、東京地検特捜部による捜査を避けるための早期解散を一部の党幹部が迫っていたことは、あまり知られていない。「捜査逃れの解散案」を巡って政権内で何があったのか。舞台裏を探った。(共同通信裏金問題取材班=植田純司) ▽そうそう手出しできない 「政治資金収支報告書の不記載は大変な問題になる。その前に手を打たないといけない」 2023年春、ある自民重鎮は首相と向き合うと、こう切り出した。不記載問題は22年11月に共産党機関紙の「しんぶん赤旗」がスクープしていたが、多くの大手メディアは事件化されることはないと踏んでいた。 重鎮は、とあるルートで入手した情報を基に「このままでは特捜部の本格的な捜査は必至だ」と岸田首相に説明した。そして提案する。「選挙で勝利して法改正すれば、そうそう手出しできない」
選挙期間中に捜査当局が国会議員の強制捜査に入ることはハードルが高い。選挙妨害と受け止められ、政治的公平性が失われるとの観点からだ。提案の背景には、衆院選で勝利し、国民の信を得た政権に検察がメスを入れることは困難だとの見立てもあった。 捜査回避策の腹案はもう一つあった。裏金事件を受けた改正政治資金規正法はこの6月に曲折を経て成立したが、実はその1年以上前に自民の一部が原案作成に動き出していた。①政治資金パーティー券の支払いは銀行振り込みに限定②政治資金収支報告書の監査機能の強化③違反した議員への罰則強化―。複数の関係者によると、これらを選挙後に打ち出せば「捜査が始まったとしても被害は最小限に抑えられる」ともくろんでいた。 しかし、岸田首相は首を縦に振らなかった。「安倍派、二階派の問題だから、そこが責任を取ればいい」。特捜部の水面下の捜査が進む中、こうした裏金対策会議はその後も弁護団を交えつつ断続的に開かれていた。 ▽衝撃の数字、270超